練習しましょう 1
「やーい童貞童貞ー」
「なっ、違う!俺はそんなんじゃ・・・!」
「女の一つも知らんとは、情けない奴だ」
「童貞気持ち悪い〜」
「このまま一生童貞だな」
「お、俺は・・・!!」
身体中が震えた。
「一生童貞なんて嫌だぁあああ!!!」
ガバッ
大声で叫びながらフリオニールは身を起こした。
心臓が早い鼓動を打つ。呼吸が荒い。全身汗ばんでおり、体が熱かった。
先程まで自分は不特定多数の誰かに、囲まれ、散々罵られていたのだが、今目の前にあるのは壁。
コスモスが用意してくれた野営地で、自分の部屋で、今手で握りしめているのは紛れもなく毛布。
「・・・・・・・・・ゆ、夢か・・・・・」
ほっと安心するも、悲惨な夢の内容に両手で顔を覆う。
多かれ少なかれ、夢の内容は今後起こり得る可能性のあることだ。そして事実でもある。
フリオニールはとても不安な1日の始まりを迎えた。
「はよーっス!!・・・・・フリオ?どーした、元気ないっスね」
「おはよう・・・・・・あぁ、ちょっとな」
朝から元気の良いティーダに、フリオニールは苦笑して答える。
まさか言えない。童貞が悩みだなんて。
しかしすっかり顔に出ているのか、心配してくれたのは彼だけではなかった。
「フリオニール?大丈夫?」
「何かあったのか?」
みんなの優しさが嬉しい。
だが言えない。童貞が悩みだなんて。
しかしアッサリ爆弾を投下する奴はいた。
「あっもしかして朝叫んでたこと?
俺は一生童」
「うわああああああ!!!」
フリオニールは物凄い形相で悲鳴を上げ、バッツの口を塞いだ。
どうして知っているどうして聞いているー!?
同じ屋根の下無意識の内に大声を上げていたんだから、誰かに聞かれていても不思議じゃないが、それでもあんな恥ずかしいコト、絶対あってはいけないあるはずがないと思い込んでいたので、動揺が隠せない。
しかももう終わったも同然だ。
「なになにー?教えろよバッツ!」
「本人の口から言えないものでも、今後の戦闘に支障をきたしては困るからな。言ってくれバッツ」
WOLまで正当でもあるがプライバシー一切無視の容赦ない理論を繰り出す。
コスモスのリーダーたる彼が出てきては隠し通すことなど不可能だ。
案の定バッツはさらりと答えた。
「実は−−−−」
********
「ぶっはははははは!!」
「・・・・・・・・」
「げ、元気だして・・・・・・ね?」
事のあらましを聞き、大笑いする者、無言で引く者、ひきつりつつも心配してくれる者、色々いるが、とにかくフリオニールはずーんと落ち込んだ。
とんでもない失態をバラしてしまった。最悪だ。穴があったら入りたい。次元のはざまに入って消滅したい。
涙目になりながら危ない思考に走るフリオニール。皆が声の掛けようがなく戸惑ってる中、WOLは全く表情を変えず、ブレずに言った。
「ではさっさと童貞を捨てたらどうだ?」
脳内は思いっ切りブレているようだ。
真面目過ぎる故の天然とも取れるが、しかし無茶を言う。
フリオニールは癇癪起こしながら訴えた。
「捨てられたらとっくに捨てている〜!!」
「誰かが手伝えばいい」
「いっ!?」
全員の声がハモる。
手伝えと?童貞捨てるのに手伝えということはそれ即ち・・・・・・・・・・・・
いいいいやいやそりゃねぇよ!!
ジタンが一番鳥肌を立て身を引いた。男とイチャイチャするなんて全く考えられない!!
他のメンバーだって気持ちは同じく、つーかフリオニールだってそれは御免だ。断固拒否する。
するとまたもや爆弾投下でお馴染みのバッツが、動き出した。
「分かった!良い考えがある!ちょっと待ってろ!!」
ウキウキと立ち去った彼は、5分後、ある人物を連れて戻ってきた。
「・・・・・・どういうこと?」
少々顔を青ざめさせたである。
紛れもない女性の登場に、皆まさかと表情をひきつらせる。
「だから、男の俺らより女であるが、フリオニールから童貞をとって」
「朝っぱらから何アホなこと言ってんの!」
の見事な右ストレートがバッツにクリティカルヒットする。
バッツは、にフリオニールの相手をさせる気だ。
の登場にフリオニールは顔を真っ赤にする。
「落ち着くんだ。これは皆の願いである」
「えっ、本気で言ってるんですかライトさん」
バッツの冗談かと思っていたが、WOLの真剣な様子、また皆が自分を見る視線から、冗談ではない空気を感じ取る。
フリオニールは、輪の中心で体育座りをしてうずくまっている。若干泣いた後のような状態で、顔が赤くなっていた。
がたじろぐと、この状況をめんどくさいと感じているのか、スコールがガシッとの両手を抑えた。
「大人しく言うことを聞いてくれないか」
「スコール!ちょっ、おまめんどくさいだけでしょ!」
「あいにく、ここに女性はとティナしかいない。がダメならティナに頼むしか・・・・・・・」
「ええええ待って!それはダメだよライトさん!」
しれっと言うWOLには慌てる。なんてこと言うんだこの人。
間違ってもティナにそんな役任せられないし、真面目で優しい彼女のことだ、頼まれたらきっと断れないだろう。それはなんとしても阻止せねば。
とすると私がやるしかない、となるのか。・・・・・・いやいやでもやっぱ理不尽過ぎるでしょおおお!?
「そもそもフリオニールはどうなの?私なんかで良いの!?」
フリオニールはにとって仲間でありそれ以上でもそれ以下でもない。
嫌いじゃないからこそハッキリ断れないでもいる訳だが、やっぱり恋人同士でもない以上、そう簡単にできることでもない。
どれだけ童貞でいることが嫌なのかは知らないが、まだまだ先は長いのだし大事にすべきだ。
複雑な気持ちでフリオニールを見下ろすと、彼は顔が赤いまま少しだけ見上げてきた。上目遣いが可愛く見える。
「お、俺は・・・・・のこと嫌いじゃないけど・・・・・・・その、そ、そそそんな風に考えたことないから・・・・・・っ!」
その先を想像してしまったのか、フリオニールは顔中に血が巡ってフラッと昇天しかける。
絶対このままだと持たない。フリオニールが大丈夫じゃなかった。
するとセシルが慌てて助言をしてくれた。
「あの、いきなり行為にいくんじゃなくて、普通に手を繋いだりスキンシップを取るとこから始めたら良いんじゃないかな?」
「あっ、それ良いっスね!それならも大丈夫っスよ!」
「本番に行く気はないけど、まぁ手を繋ぐぐらいなら・・・・・・・・」
急に簡単な話になったようで、拍子抜けするもはホッとする。
改めてフリオニールの初すぎる反応は、なんとかしてあげたい気はするし。
周りも、妥当な話の流れに安堵しているようだ。
話が纏まると、途端にジタンが抱きついてきた。
「抱き付く時はこーやるんだぜ、フリオニール♪」
「ちょっと、ジタン!!」
「髪を触るときはだな、こう・・・・・・」
「悪乗りすんなバッツ!!」
いつの間にか復活して来たバッツ共々、は払いのけると、フリオニールの腕を掴んで歩き出した。
「うあ、う、っ!?」
「どこに行くんだ?」
「遊びでやる訳じゃないんだから、見世物になるのは御免だよ。昼には戻る!」
そう言い残して、とフリオニールは別の次元に入っていった。
>>
更新日:2009/05/03