剣の舞 3

























ある日、が廊下を歩いている時だった。

何か見覚えのある物体が目の前を横切って行った気がする。
いや人なんだけど、物体と表現したくなるような、異質で理解し難い存在。
しかしまさか、こんな所に居る訳ない。ないない。
と、は思うものの足は既に物体を追う為動いていた。
今まで何度もこんな有り得ない経験をしてきたから、今更自分の予想や目を疑う事もない。

完全に信じたくはないが、視力は良い方だしなぁ。

などと考えながらが追って角を曲がると、やっぱり居ました妖精さんが。

長身の妖精さんがウフフと笑みを浮かべて何をやっているのかと思ったら、何処からか迷い込んできたと思われる蝶と戯れてました。
・・・・・・・うん、大丈夫。私もなかなか動じなくなってきた。
いきなりの猛将出現にも大声でツッコミしたりなんかしないぞ。
ツッコミどころ多すぎて何から訂正すれば良いのかも分からないし。
とりあえずは話しかけた。



「楽しそうですね」



現れた人物――張コウは近付くを気にすることなく舞っていた。



「えぇ、迷い込んだ儚げな蝶が美しくて、つい追いかけてしまいましたが・・・・・こうして美と触れ合うのは至福です」



ヒラヒラ〜と自身から花びらを舞い散らせそう・・・・っていうか幻覚でなければ舞い散らして、張コウはうっとりしていた。
絶対張コウの事をゲームで知らなかったら引いてたな。
今も多少引いてるが、なんとかは笑顔を保って聞いた。



「蝶を追って・・・・魏からここに?」



自分で言ってて信じられないが、前例がある。
迷子で呉の城下まで来る君主がいるのだから。
すると張コウはピタッと舞うのをやめご機嫌ようと蝶に向かって手を振ると、追いかけるのを止めた。
に向き直ってフフッと笑っている。



「面白いお嬢さんですね。私が滞在している事を知っているのではないのですか?」



不思議そうに口元に手を添え首を傾げる張コウに、えっとはたじろいだ。
魏の者と知ってる事をバラすのがまずかったかと思ったが、張コウはが自身のことを知ってて当たり前だと思ってたらしい。
どういうこと?えっ、私以外は周知のことだと?
言葉に詰まるに張コウは丁寧に自己紹介してくれた。



「私は張コウ。魏の武将で、この度は舞の指導をと5日程前からこの城に滞在させて頂いております」



私が余りに美しいので直ぐ気付いてらっしゃるかと・・・・・
後半は軽く聞き流して、は目を丸くした。まさか舞の専属講師というのが張コウだったなんて。
そんな凄いことを誰も教えてくれなかったのは、これが初めてではなく当たり前だからに違いない。
っていうか陸遜に舞を指導してるのが張コウか。

・・・・・・・・・教えてるとこ超見たい。

はゴクリと喉を鳴らしてから、張コウに詰め寄った。



「あの、私と申します!良ければ次の宴の舞を練習してるとこ、見学してもいいですか?」



自分なりにキラキラ光線を放ってみる。陸遜に言うより絶対張コウの方が手っ取り早そう。
案の定、最初はキョトンとしていた張コウだったが、が美に対して熱意があるのだと思い込み、ポーズを決め了承した。



「良いでしょう!美しいものを見て学ぼうというその心意気!若いのにご立派ですね、どうぞ私を美の手本に!!」



再び張コウはブワッと花を散らした。





















「・・・・・・・・・・・・・」



その日の午後、いつも通り練習をしている場所に訪れ、陸遜は脱力した。
何故張コウだけでなくがいる。
教えた覚えはないしどこから嗅ぎつけて来たんだか。
ニヤニヤ笑顔のをキッと睨んでから、陸遜は中に入った。



「何のつもりか知りませんが、出て行ってもらえます?邪魔です」

「まぁそう仰らずに。このお嬢さんは美しさについて研究熱心なのです!見学ぐらい良いじゃ」

「嫌です」



陸遜は張コウの言葉を遮りキッパリと言い放つ。
張コウはおやまぁと首を傾げ、は予想はしてた為たじろぐことなく居座っていた。



「良いじゃん、人に見られる練習ーってことで」

「あなたが見たいだけでしょう。却下します」

「張コウさんは良いって言ってくれたよ」



ニンマリ笑っては挑発的な態度を示す。
張コウがこっちの味方についててくれれば心強い。何でも自分の思い通りに行くと思ったら大間違いなんだからな。
しかし、優勢だと思っていた形勢はいとも簡単に逆転した。



「うーんしかし陸遜殿がそこまで言うなら仕方ありませんねぇ」

「え!?そんな、張コウさん見せてくれないんですか!?」

「私は常に美しい者の味方ですから」

「オイちょっと待て。女の私を目の前にしてそれを言うか」



は引きつり笑みで怒りを込めて言ったが、内心ではダメージ100を受けていた。
そりゃ陸遜は美形で顔整ってると誰しも思うだろうけど、私だって・・・・・・・・美人ではないが、普通だとは・・・・
ごにょごにょ詰まるを陸遜は背中を押して外へと向かわせ、更に追い討ちをかけた。



「そんなに暇なら仕事を増やして差し上げましょうか?」

「練習頑張って!」



は拳を突き出し親指を立てエールを送ると、何事もなかったかのようにその場を去った。




















日はあっという間に過ぎていく。


蜀が来る当日となり、午前中ちょっと執務をやったと思ったら直ぐ蜀歓迎準備に城中のみんなで取り掛かった。
は掃除担当の呂蒙軍に配属されていた。
陸遜は個人的に剣舞の最終確認でいない。陸遜の演目だけ気合いが入ってる。
まぁ良いんですけどね、楽しみにしてるから。
あれからずっと陸遜の仕事までやらされていたけど、練習も見に行かせて貰えなかったけど、良いですよ本番ガン見してやるから。
ミスったら盛大に笑ってやるから(質悪い)



「それじゃ、第一班は城門、第二・第三班は西側、第四・第五班は東側・・・・・」



各隊にビシビシ指示を出しいくのはさながら戦を始めるようだ。
いやみんな手に持ってるのは雑巾と石鹸だけど。



「それでは各自持ち場につけ!塵一つ残すな!」

「おおー!!」



呂蒙が高々と拳を振り上げると、その場の全員が真似て拳を上げる。
呂蒙さんとその配下の方々は本当に真面目だなぁ・・・・とはぽかぽか心温めながら周りに合わせ拳を振り上げていた。











、こっち頼む!」

「はーい!」

「今度はこれを」

「はいはい」

「おーい!あれもよろしくなー!」

「は、はーい!」



は次から次へと動かされて目が回り始めていた。
雑巾1枚持って色んな物を綺麗に拭いてく担当で、向こうから勝手に指示を出してくれるので言われた物を拭けば良いだけなのだが、結構大変。
簡単な仕事を回してくれているのだが、如何せん疲れは溜まってくるものだ。ちょっと腰を曲げたり、肩を回すとボキボキと音が鳴る。
ふぅーと息を吐き手を止めていると、不意に声が掛かってきた。



ー、ちょっといいか?」

「ん?どしたの堅パパ?」



ニコニコ笑顔の孫堅がこそーりとの隣までやってくると、書簡を1つ、目の前で広げた。
書簡にはどこかの見取り図が描かれている。



「実は宴での諸将たちの席をに決めてもらおうと思ったのだ」

「えっ私?」

「いつもは来た者から順に座っていってもらうのだが、それだとどうしても呉と蜀で分かれてしまいがちでな。いっそ混ぜようと思ったのだが、どこをどう組み合わせれば良いか決めかねておる。何か良い案はないか?」

「そーいうのはくじ引きが手っ取り早いですよ」



サラリと言うに、ほう、と孫堅は相槌を打つ。



「席に番号を決めておいて、来た人から番号が書かれた紙を引いて貰うんです。で、同じ番号の席に座る」

「ふむ、面白いな!やってくれるか?」



孫堅は見取り図を指さした。
あぁ、これは宴の会場か。流石に広いな。
は笑顔で答えた。



「喜んで!人数はどうすれば?全部に割り当てちゃって良いの?」

「あぁ頼む」



は近くの机から筆と場所を拝借し、そりゃもうてきっとーに一から番号をふってった。



「これは分かり易い場所に掲示しておいて下さいね」



40番まで書き終えると、今度はくじの方を作る。
ふと、くじを何で作ろう。と考えると、一番に竹簡が思い浮かぶのだが、竹簡じゃ長くて大きくなりすぎる。
番号を隠せなかったら意味がない。
すると孫堅が「割ってやろうか?」とか言い出して、アッサリ素手でバキッ、更にボキッベキッと1本を4等分にした。
・・・・・・・竹って素手で割れるものだっけ?い、いやここは喜んでおこう。
が竹簡の紐を解きバラバラの竹にし、孫堅がそれを割って、その後2人で番号をふってった。



「これで良し!」



が最後の竹に番号を書き、そこら辺の箱を拝借して中に全ての竹を入れくじ引きが出来上がった。
形が均等ではなく無骨であるが、今から引くのが楽しみである。
と孫堅は顔を見合わせ満足気に微笑んだ。
すると孫堅はヒョイと箱をの前に差し出す。



が一番に引くと良い」

「え、こーいうのは作った人が最後だよ」

「良いではないか、手伝ってくれたお礼に。特別だ」



裏のない孫堅の笑顔に、は思わず笑った。
純粋に嬉しく思うところだ。
製作者が先に引かないのは不正をしてないとアピールする為のものだから、にその気がなければ先でも問題はない。
はお言葉に甘えて一番にくじを引いた。



「九番だ。えーっと・・・・・」



先に作った見取り図と照らし合わせる。
おっ舞台に近い前の方だ。やった、近くでみんなの芸が見られる。
正直、蜀より宴の方が楽しみかもしれない。蜀誰来てるか分かんないしな!
桃園義兄弟が見れたら儲けものだと思ってるぐらいである。
に続き孫堅もくじを引いていた。



「俺は中央辺りだな」

「堅パパもみんなとごちゃ混ぜで良かったの?」

「あぁ、今回は主従関係なく全員交流をもてるよう俺や策達、劉備君も混ぜるつもりだ。その方が俺が楽しいからな」



ワハハと笑う孫堅が良い笑顔で格好良い。
結局自分の為かい!とは笑いながらツッコミした。



「それじゃ、また宴でな」



孫堅はくじ箱を持って去っていった。
あー楽しかった。・・・・・・・よし、頑張ろ。
は孫堅を見送ってから再度気合いを入れ直して作業に取り掛かった。











時間はあっという間に過ぎていく。










「よし、もう良い。、宴が始まるまであと1時間あるから、身支度してきて良いぞ」

「はーい」



会場の飾り付けも終え、は言われるまま会場を出る。
初めの頃よりも大分あちらこちらが賑わってきた。皆最後の準備と足早に動いている。
1時間あるといえど、不安や緊張もしてきたし早めに準備したい。
も周りと同じように足早に部屋への通り道を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。



!」

「わっ!?」



誰だか確認する前に腕を取られ、慌てて振り返ると、正装した尚香がニッコリ笑顔で佇んでいた。
お化粧も綺麗にされていて、ほんのり朱に染まってる頬が可愛らしい。
は思わず凝視して、感激の言葉を述べた。



「凄ーい!!綺麗!お姫様みたい!」

「失礼ね、元々お姫様よ私」



おどける尚香に、あっそうだったとが気付くと、いつもの調子を取り戻して2人で笑い合う。
しかし直ぐに尚香は笑うのを止めると、ズルズルを引きずりながらの部屋とは別方向に歩き出した。



「ちょ、どこ行くの?」

も着替えないと駄目じゃない。お化粧してもらいに行くわよー」

「えっ、いい!いい!自分でやるから!」



慌てて抵抗するも何故か引きずられっぱなしである。
転びかけて何度か自分で足を動かすがその場に止まろうとしてもズルズル連れていかれる。
ちょっ、尚香力強すぎぃいいい!!!
何て恐ろしいお姫様だ。いや知ってたけど。
は無駄な努力をしながらとある一室に連れて行かれた。



「みんなー!この子頼むわよー!」

「はーい!!」



待っていたのは同い年から年下ぐらいの女官達。別名かしましシスターズ(勝手に命名)
そしてズラーッと並んだ大量の衣装だった。
尚香みたいにお姫様が着るような繊細な服もあれば、金ぴかキラキラ豪華なもの、以前尚香がに買ってきたようなコレ絶対この世界のもんじゃねーだろ的な、の常識からも外れた服まであったり。
ちゃっかりの現代服も混じってた。勝手に衣装扱いかい。
がげんなりしながら衣装を見つめている内に尚香はさっさと部屋を出、女官達は横でウキウキしながらを見つめていた。



「どうする?私達のお薦めは・・・」



ピラッと、ここぞとばかりに1人の女官が差し出したのは、赤い煌びやかな羽織りだった。
まさしく豪華。派手すぎやしないかというほど。
だが女官達はこれを着て欲しいんだろう。瞳をキラキラ輝かせて返答を待っていた。
しかし、受け入れるには抵抗がありすぎる。
しかもこの服着て携帯でぱんぱかぱーんとかやったらかなり変ではないか。



「わ、悪いけど他のが良いなー」



は出来るだけ女官達の目を見ないようにしながら他に服を探した。
すると女官達はめげずにあれやこれやと服を提案する。



「だったらこれはどう!?」

「こっちの方がいいよ!可愛いでしょ!」



年が近いのと姫があんなだからという風潮もあり、ここの女官達は割とハキハキ大雑把な体育会系が多い。
遠慮がないというか。おかげでも気を使わなくて楽なのだが。
普通に友達感覚で、相手ものことをちょっと変わった女の子としか思ってないだろう。
特別視してないという意味で。



「あ、本当だ可愛い」

「でしょ!はいっ決まり!時間ないからさっさと着替えてー」



最終的に選んだのはチャイナドレス型のものだった。
現代にあるようなキラキラのサテン生地ではないが、綺麗な刺繍が施されていて十分宴に相応しいだろう。
チラリと生足が見えるスリットがほんの少し色気を引き出す。
あとは半袖程度で露出はなく、動きやすい方との判断だ。
実はチャイナドレスを1回着てみたかったのもある。

が着替え終わると次は一斉に化粧と髪に取り掛かる。
こんな大人数に化粧されるのなんて初めてだからドキドキしていた。
完成をソワソワしながら待つの後ろで女官がほくそ笑んでたのは、この時はまだ知らない。



30分ぐらい経った頃だった。



「はい完成!」

「鏡をどーぞ」

「ありがと!」



鏡を受け取り自分の顔を確認すると、上手に化粧されているのが目に入り自分でもおぉっ!と感嘆の声をあげるのだが、直ぐにおかしいものがついてることに気付いた。
の表情が一変する。片手で物体を触ってみた。



「・・・・・・・何これは」



両耳の上辺り、髪に髪飾りならぬ猫耳がついていた。いや虎耳?
どっちでもいいがとにかく獣耳がついている。
の反応なんか気にせず、女官が答える。



「可愛いでしょ!」

「いやそうじゃなくて」



は虎耳を取ろうと引っ張ったが、直ぐに女官に止められた。



「あー駄目!結った髪が崩れちゃうじゃない!」

「じゃあ変なのつけんなぁああ!!」



が勢い任せに怒ると、女官達はウルッと瞳を滲ませた。
思わずは「うっ」身を引きたじろぐ。



「だって、こんな不思議な髪飾りが似合うの、しかいないって。つけて欲しかったんだもん」

「つけるの大変だから一生懸命やったのに」

「そんなに嫌ならやり直します、2時間掛けて



2時間掛けたら確実に宴に間に合わないだろーが。
明らかに確信犯的な言葉が聞こえたが、この子らは本当にやる。なんせあの尚香の(以下略)
は溜め息を吐いた。
まぁ服と合わせて変ではない。と思う。
いつも下ろしてるか軽くしか縛ってない髪を左右に団子でしっかり結い上げられ、これをやり直せというのは少々躊躇われる。
お化粧は綺麗で、今後の参考に教えて欲しいぐらいだ。
そう考えると虎耳ぐらい、お祭り騒ぎの一種のショーだと思えば、別にどーってことない。



「分かった、良いよこのままで」

「さっすが!やったー可愛いよーう」



了承すれば途端に零れる笑み。
抱きつきスリスリ寄ってくる女官もいれば頭を軽くなでなでする女官もいて何だこのハーレム状態はとは苦笑した。
まさかこっちで獣耳をつける事になるとは。というかこんなものが存在するのが不思議でならん。
しかし、聞いた所でそろそろお馴染みになりつつある奴の名前が出てきそうなので、もう何も言うまい。



「さ、急いで急いで。みんなもう行ってる頃よ、始まっちゃう」

「えっ嘘!?ありがと!!」

「「「いってらっしゃーい」」」



女官達に笑顔で見送られ、は部屋を後にした。
関係者は大体が既に会場入りしていて、他の者は自室に控えているのだろう、先程とは打って変わって、廊下に人通りはなくシンと静まり返っていた。
会場に近付くにつれ心臓がドキドキ鳴り響く。緊張してきた。
やがてザワザワとした人の気配のする音が聞こえてきて、の期待感は一気に膨らむ。
会場の扉は開けっ放しで、そこから人の声と温かい光が溢れ出ていた。




「よし、行こう」




は意を決して入口に近付いた。













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言い訳

まずは空き過ぎですよね。前回更新してからの間が。
ひーっ修正作業だけだったのにねー!私はプロットと呼ばれるものを書かずにいきなり下書き(=本書き)して
後から文章変なところだけ直すので、実際これ書き終わってたのは3月辺り な ん   で  す (殴)

ヒロイン張コウさんと遭遇しましたね。
彼は元々壊れてる感がヒシヒシとあるので、今更私が手を付け加えることなく普通にボケられます(笑)
それから呉の女官達はふてぶてしいです。元気いっぱいです。
蜀はおしとやかで清楚。魏はきっとセクシーなお姉さんでウハウハなんだろうな(*´Д`)/ヽァ/ヽァ
そんなイメージがあります。いや、でもこの無双世界だったら、きっとみんな逞しい(笑)




更新日:2008/08/03