剣の舞 2
――――ろくな人間がいないからです
・・・・・・・・いくら他国の人だって交流もってんだからそんな言い方しなくても良いだろうに。
ゲームで蜀を知ってるから、尚更にとって良い気分じゃない。
しかしそれには陸遜なりの理由があった。
「殿はまだ経験してないから分からないでしょうね。あいつら、食糧食い荒らすわ五月蝿いわで・・・・!」
陸遜は思い出したのか怒りでギリリと奥歯を噛んだ。
「しかもその内の1人がなんと言ったと思います!?『これも丞相の策、食べれるだけ食べよ!食べきれないものは箱に詰めてこっそり持ち帰る!』
あいつら呉に空腹を満たしに来てるだけですよ!これでもかと食糧食い荒らして!!」
・・・・・・・・・ここまで息を切らして怒った陸遜を見たことがあるだろうか、いやない(反語)
いつも冷静というか地を這うような怒り方をするから、新鮮・・・いやそれ程腹立たしいのか。
内容はめっちゃ笑える気がするが(は必死に笑いを堪えた)
陸遜に聞かれてる時点で全然こっそりじゃない。
なかなか蜀も馬鹿そうだな。
ふと指示を出したと思われる諸葛亮を思い出す。
ゲームをやってる時から怪しさを感じてたし、既に聞いてる話からしっかりと変人さんというイメージがこびりついている。
そこまで考えてはあることを思い出し首を傾げる。
「そういえば陸遜て諸葛亮のこと尊敬してるんだっけ?」
ゲームのように尊敬の意を持っているとは思えない。
諸葛亮の噂は陸遜の耳にも入ってるはずだし、陸遜自身キラキラ瞳を輝かせて誰かを尊ぶなんてことないだろう。
そうすると、ゲーム中の陸遜は本当に素直で可愛いな。
何このギャップ。
少し間があいたが、の予想に近い答えが返ってきた。
「・・・・軍略面での見事な策、軍師として尊敬してますよ。
人としては理解したくないですが」
「やっぱりな」
「それより何故私が諸葛亮先生を尊敬してると?」
「あぁいや、諸葛亮といえば天才軍師って呼ばれてるし、なんとなく」
は適当に誤魔化した。
ゲームで知ってるからとは話さない。
ゲームの事も話したが全部が全部理解してもらえる訳ないし、深く突っ込まれたら答えられないのもあるし、心情的に答えてはいけないものもある。
なのでゲームは武将を知っただけの手段ってことで通している。
その後もは今まで行ってきたものを参考に宴の話を聞いた。
芸を披露といっても重く考えなくていいらしい。
尚香も余興といったがまさしくその通りで、宴が盛り上がるなら何でもいいのだ。
面倒臭がってる凌統なんかは毎回同じことをしてるらしい。
それでもたまに見る分には受ける訳だ。
また、誰かと合同での芸も良い。
実際1人1人だったらえらく時間が掛かるし、それは自由に諸将同士で相談すれば良い。
何をやってもいいというなら、ふと疑問が浮かぶ。
「陸遜は自分で剣舞するって決めたの?」
「まさか。
自分からなど絶対やりません」
「ですよねー」
「全員がくだらないものをやってしまう可能性も考慮して、せめて1人はしっかりしたものをと剣舞は毎回誰かが担当するのです」
「へぇー」
だったら初めっから剣舞だけでいいじゃん、と思うがだってみんなが何をやるのか楽しみだし、みんなも楽しんでるのだろう。
忘年会とか、はたまた小学校の時にやったお楽しみ会とか、そんなノリだ。
しかしそう考えると、剣舞が宴のメインということか。
は感心するように言う。
「陸遜、大役なんだねぇ」
「誰しもが通る道ですよ。別に難しくもないですし」
「自慢か」
サラリと言われた。これだから出来る奴ってのは・・・・!
がムッと表情を固くして陸遜を見ていると、それよりと陸遜は念押しする。
「殿は自分の事を考えるべきです。いくら何でもいいからって恥かくような真似は止めて下さいね。蜀の面々に馬鹿にされないように」
「うっ・・・・・・か、考えとく」
この日はこれで終了となり、は自室に戻った。
「どうしよっかなー、この世界にない文化ってか」
寝台の上に倒れ込んで考えてみる。あまり深く悩まずとも、殆どの物事の形式は違う気がする。
だったら宴に何が相応しいか考える訳だが、宴=宴会=サラリーマン=腹踊りととんでもない方向しか思い浮かばない。
あとはその年に流行ったものとか。
ただそれは周りも知ってるから面白いのであって、1人でネタをやっても滑る可能性がある。
というかやりたくない。
手品とかのパーティーセットを買いに行けたら良いのに。
そんなものこの時代にあるわけないから何をやるにしても自作になる。
悩んでもなかなか思い浮かばない。
歌とかダンスも十分形式違うだろうから通用するだろうが、そんな自分で創作してやるなんて技能にはない。
「うーん・・・・・・・」
頭がパンクしそうなので大人しく寝ることにした。
翌朝、陸遜に書簡届けを頼まれ呂蒙の部屋に来ていた。
「ねぇ呂蒙さんは宴で何やるの?」
届けるついでに聞き込みをする。大事なことだ。
呂蒙はうーんと首を傾げてから答えた。
「まだ決めとらん。こういうのは苦手なのでな」
はははと苦笑いする呂蒙だがは再度尋ねる。
「じゃあ前回は何やったんですか?」
「孫子兵法の一部を抜粋して暗記し朗読をした」
呂蒙は誇らしげにしている。
凄いだろうが、
果たしてそれは酒の席で盛り上がるのだろうか。
特に呉の連中は人の話を無視する奴が多いから聞いてなさそう。
なる程、こういう滑る場合もあるから呉の威厳を守る為それっぽいのをちゃんとやる人を決めたんだな。
は勝手に前回の呂蒙を滑った人扱いした(酷い)
「あ、陸遜は前回何やったんですか?」
そういえば陸遜には聞いてなかったな〜と思いついでに訊く。
剣舞でなければ何をやってたというのだろう。
あまり盛り上がるような事をしている想像が出来ないのだが。
わくわくしながら回答を待ってると、呂蒙さんの口から恐ろしい事実が飛び出した。
「・・・・・聞いてないのか?いや、自ら言う訳ないな。あいつは
『炎を飛ばします!』とか言って
室内にも関わらず爆弾を爆発させて火を飛び散らせたんだ・・・!!あの時は死ぬかと思った」
あ ん の 放 火 魔 何 や っ て る の
思い出して身震いする呂蒙に深く同情する。
何だ、奴も十分空気読まずに自分のやりたい放題やってた訳だ。よくもヌケヌケと人のことを。
「今回陸遜が剣舞で良かったですね」
「そうだな」
二人はホッと一息ついた。
さていつまでも世間話している訳にはいかない。
「それじゃ失礼しました」
「あ、すまないが陸遜の所に戻る前にこの書簡を甘寧に届けてくれんか?」
部屋を出ようとするに呂蒙が書簡を差し出す。
ふむ。甘寧か。どこにいるかハッキリしない奴だけど、呂蒙さんの頼みなら仕方ない。
は書簡を受け取った。
それから5分後。
甘寧の部屋に辿り着くと、彼は凌統と2人で将棋崩しをして遊んでいた。
この前が教えた遊びである。将棋で山を作って、てっぺんに細い棒をさして、交互に好きなだけ山を崩していく。
先に棒を倒した方が負け。慎重さは問われるが頭を使わなくて良いゲームだ。
本来は将棋ではなく砂を使うものだが、外から持ってくると汚れるし面倒なので将棋で代用。
なんだかんだ仲良いよなーこの2人。
前から思ってたけどとっくのとーに和解済みなんだろう。平和だ。
「あーっ!!ちっくしょおお!」
「やっほーい馬鹿馬鹿〜♪」
「もっかいだあああ」
ただし甘寧はともかく凌統までも馬鹿になってる気がする。
朱に交われば赤くなるってか?それでも凌統は甘寧の前以外ではこんなにはしゃがない。
良いことなんだか悪いことなんだか。
良し悪しで計ることでもないが、つい考えてしまうほど凌統が平たく言えばキャラ違ぇ。
・・・・・・・今更か。そうか。
は勝手に納得して2人の前に歩み寄った。
「おはよー、甘寧、これ呂蒙さんから」
「おぉっありがとな!」
「よっ、陸遜の側に居なくて良いのかい?」
が甘寧に書簡を渡すのを見ながら、勝ってて上機嫌なのか凌統がニヤニヤしながら言う。
どういう意味だ。凌統もどうせ甘寧に似るなら思いっ切り率直になってしまえ。
は茶化して答えた。
「この後どーせ戻りますよーだ。それより、2人は蜀来るとき何やんの?」
今は陸遜より聞き込みが大事。
書簡届けなら多少時間が掛かっても怒られはしまい(文句は言われるが)
甘寧がキョトンと間抜けな顔をした。
「へ?考えてねーや。酒樽一気飲みでいんじゃね?」
「じゃ、俺はその手伝い係ってことで」
本当に適当でした。
そして凌統は簡単な良いとこどりをしようとしている。
ずるい。ずるいぞ。他力本願じゃないか。
「もっと宴っぽいさ、盛大なことしないのー?せっかく蜀が来るのに」
「そういうは何すんだよ。どーせ陸遜からやれって言われてんだろ?」
「えっ・・・・・・・・考え中」
凌統の鋭い読みには黙るしかない。
そもそも宴の話が出たのは昨日、一昨日の話だ。
あと5日しかないのだから時間がないが、そう直ぐ決められる人も少ない。
だってパッと思い浮かばないから聞き込みをしているのだし。
ただ皆は初めてではないから、慣れてるようでなんとなく余裕がある。
きっと明日来ますと言われても、どうにか出来てしまう奴らなんだろう。
対しては、いきなり1人大勢の前に放り出されて何かやれと言われても固まってしまうだろうし、ちゃんと考えて決めておかねばならない。ちょっと悔しいが。
なのに甘寧が適当なことを言う。
「だったらも酒樽一気飲みにして俺と勝負しねーか!?」
「無茶言うな」
自分で酒に強くないことは自覚している。
まぁ一杯飲んで酔いつぶれはしないだろうが。
が渋い顔をすると、凌統がまぁまぁと椅子を引っ張ってきてを座らせた。
「一気飲み勝負とは言わないが、何だったら協同するかい?俺はいーぜ、楽しそうだからな」
「おー良いな!俺もー!」
「私も良いけど、何するの?」
「それはが決めんだよ」
「えー」
結局他力本願かい。
うーんと悩むに甘寧と凌統がケラケラ笑いながら再び将棋で山を作る。
ちくしょう、私はこんなに悩んでるのに。憎たらしい。
「あ、頭使うようなのは勘弁な!」
「面倒なのもな。宴の準備にだけ時間割きたくないしね」
しかも文句を言うだけ言って遊び始める2人。考える事に協力する気はないらしい。
2人の態度にの中でプッツンと何かが切れると、次には手で山を払い飛ばしていた。
「あーもうだったら共同の話はなし!一生遊んでろ!」
「ぶはっ!?」
上手い具合に飛んだ将棋が数個甘寧の顔面に直撃したがは怒りで気付かない。
怒ったままは乱暴に立ち上がると部屋を出て行った。
「・・・・・・・・あ〜あ、真面目に考える必要ないのに」
ちょっと悪い事をしたなと心を痛めつつ、凌統は頬杖をつきながら呟いた。
張り切りすぎて逆に失敗しなきゃ良いけど。まぁならいざというとき陸遜がついてるし大丈夫だとは思うが。
それより凌統は顔に将棋の痕が残ってしょんぼりしている甘寧をどうにかしてあげよう。
あーイラッとした。私が真面目に考えてるのにアイツらときたら。
自分だけでなく凌統と甘寧の分まで押し付けられたような気がして、だったら初めから1人でいいわといきり立ってしまった。
気が静まらないままは陸遜の執務室へと戻る。
「遅い」
扉を開けて入るなりビシッと突きつけられた言葉には一瞬動きを止めた。
くぅうう、あんな所で時間を使わなきゃ良かった。イライラする。
はあからさまに目を細め嫌悪の表情をしていたが、対する陸遜も嫌悪ととれる表情だ。
つーか睨まれた。すんまっせん。
陸遜は既に仕事を終えたようで卓の上が綺麗だった。
逆にの卓上には書簡竹簡が山のように積み重ねられてある。
「これから私は別件で席を外しますが、殿はさぼることなく未処理の書簡を片付けるように」
どうやら陸遜はが戻ってくるのを待ってたらしい。
そりゃ悪いことをしたが、だからって目の前の山は何?
「えっ、量がおかしいよ。さっきより明らかに多いんですが」
「あなたが行ってる間に増えたんでしょう。皆さん仕事は早いですからね」
ぜってーこいつ自分の分も回したな。
目の前で堂々と山を大きくされるのもいただけないが、こっそりされるのも苦虫を潰したような気分だ。
まぁどっちにしろ増やされ嫌なのだが。
「必ず全て終わらせるように」
陸遜はそう釘を打ってからさっさと部屋を出て行った。
ポツーンと1人残され、微妙な気持ちになる。
そして沸々と、ある感情が湧き上がった。
「・・・・あーっもう、どうにでもなれー!」
はがむしゃらに仕事に手をつけ始めた。
宴のこともどーにでもなれ!と。
****************
「宜しくお願いします」
「お任せを。いざ美しく、陸遜殿を宴の華にして差し上げましょう!」
陸遜は目の前でクルクル回り蝶々や花をどこからか出してる他国の武将を、冷めた目で見据えていた。
舞の専属講師とは張コウの事だった。
毎回剣舞をやる際は特別に出張してきてもらって彼に習うのである。
もっとまともな人は居ないのかと探したくなるが、周瑜が太鼓判を押してるので変更しようがない。
陸遜は張コウが苦手、いや普通の人なら大体そうだが、とにかく極力関わりたくなかった。
だから冷めた態度でいるのだが、張コウは大いに勘違いする。
フッと笑うとポンと陸遜の肩を叩いて穏やかな表情を見せた。
「大丈夫、陸遜殿は元が美しいですから。お肌のお手入れは何を?もちっと水々しく滑らかで羨ましいですねぇ」
そう言って陸遜の頬に指を滑らせる。
ゾワッと鳥肌が立ち背筋が凍った。
「止めて下さい、張コウ殿の美しさには劣りますよ」
「謙遜を!でも嬉しいですね。流石陸遜殿、分かっていらっしゃる」
ひきつった笑みで押し返せば満足気にまた妙なポーズをとる。
あー殴って帰りたい。殿と仕事に勤しんでる方が100倍楽しい。
陸遜は心の中でブツブツ文句を垂れつつ、表面は穏やかに張コウの指導を受けた。
着々と、蜀を迎える為の準備が進められていた。
NEXT
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言い訳
本当に自由だなー、って自分でも思う。登場キャラが。
まぁ私の中で魏と蜀が敵対、呉は中立ってイメージが割と強いので(実際呉は両方と共闘した事あるけど魏と蜀同士がって事はなかったはず)
気軽に出せるのもあります。ぽかぽかした国だよなぁ・・・・!
あ、今更ですが、今回在り来たりな宴の話を書いてるのは、
私が陸遜に剣舞をさせたいが為だけと言っても過言じゃないです(ぇ)
蜀が来ようがひたすら陸遜を推します。香月シリーズはそーいうものです。
更新日:2008/03/10