ここは平和です 2
「わぁ凄い・・・・!」
ワイワイガヤガヤ街の活気を生で見ては感嘆の声を上げていた。
正門を出てすぐ、街の大通りへと繋がっている訳だが、朝っぱらからなかなかの人混みである。
いやこちらの人間は陽が出ると同時に活動を開始するのでが早く感じるだけなのだが、ともかく、凄い。
物を売る声も飛ぶ。大通りには出店も並んでいるのだ。
さすが城下町。現代で住んでた街とは一際違う。
都会に出たって全然違う雰囲気だろう。
「あ、何あれ!」
は次から次へと目移りしては楽しそうに声を上げた。
まるで子供である。いや初めて見る知らないものがたくさんあれば、誰だって心躍る。自然と瞳が輝く。
子供のようにはしゃぐのだ。
そんなを陸遜は微笑ましく見ていた。
可愛らしいなぁ・・・・などと絶対口にしないような感想を思いながら。
が子供であるなら、陸遜は保護者だ。
初めての街で迷子になどさせるわけにはいかないし、しっかり目を光らせていなければいけないのだが。
・・・・・ふと、立場上保護者として同じく面倒を見なきゃいけない人物が隣に居ないことに気付いた。
まさか、もうはぐれた!?と慌てて振り返ると、居た。
目当ての人物は直ぐ見える場所に、居た。
フルフル全身震わせながら門の前で孫権は突っ立っていた。
何をやっているんだあの人は。
陸遜は嫌悪の表情が面に出ないよう気をつけながら、の手を引っ張って孫権の元に戻った。
「孫権殿?どうなされました?」
「す、すまない人混みは大の苦手でな・・・・!あああそこを通らなければいけないのだろうか・・・・・?」
青ざめた様子の孫権に陸遜は困った。
そんなこと言われても、歩けないほどぎゅうぎゅう詰めではないし、あれぐらい当たり前だ。
まぁいつもよりはちょっと多いかもしれないけど。
「大きな通りなので、見て回るのには打ってつけですが」
それに今日はの為に来たんだ。間違っても孫権の為じゃない。
主の息子だからハッキリと態度に示して言わないが、陸遜にとっては邪魔でしかない。
思わぬ手の掛かる子供の出現に、舌打ちしたい気分だ。
「別に本当に賑わってるところじゃなくて良いよ?私も人混みはどっちかというと苦手だし、街並み見るだけで楽しいから」
はニコッと笑って孫権を歩くよう促す。
正直、心の中では本当に人が苦手で引きこもりなんだな・・・・とか呆れてもいるが、尚香はこんな孫権でも普通に街を歩いて欲しいから自分に託したんじゃないかと、適当に解釈している。
孫権と仲良くなろう作戦を経て、今度は孫権の性格改造計画か。
完全にの勘違いだが、今の孫権には必要ともいえる要素だから何ともいえない。
結局2人に、孫権をどうにかしないと・・・!と妙な連帯感が生まれることとなる。
ようやく陸遜とで孫権を挟む形で人混みを避けながら歩き出すのであった。
「あら兄様やるじゃない!陸遜からの隣を奪うなんて!」
「・・・・孫権様は・・・・・やれば出来る子・・・」
「どーなんだか。本当に動いた通りの結果なら良いんですけど」
離れてるといえど初めから震えっぱなしでぎこちない孫権に気付いている凌統は、生暖かい視線を送った。
孫権がぎこちない程度で済めばいいけどと、不安めいたものも感じる。
「あ!曲がった!周泰!!」
「・・・・・御意」
「っておい走んなっつーの!!」
尾行は続けられた。
「うはっ凄く良い匂い・・・・!ねぇねぇ、あれ何!?あれも肉まん!?」
達が匂いに釣られ出店に立ち寄ると、蒸籠があって中には肉まんの形をした茶色の物体があった。
匂いからすると香ばしいタレのついたお肉なのだが・・・・
「へいらっしゃい!お嬢さん、食べてくかい?」
「これ何て食べ物なんですか?」
「へぇ、
豚肉を肉まん形に切っただけでさァ!」
「それは切る意味があるのですか」
陸遜が訝しげにツッコミしたが、店主はゲラゲラと「可愛さ追及しただけですぜ」と笑っていた。
なんて適当ぶり。でもなんか好き。
がつられて笑うと、店主は機嫌良く商売する。
「可愛いだけじゃなくて食べやすくなってんでさァ!どうだい、後ろの兄ちゃん奢ってやんなよ!」
なんて商売上手な店主だろう。
陸遜と孫権が顔を見合わせ、そしてを見ると・・・・・・・・うん、食べたそう。
はっきり言わないが動かないことから食べたそう。
「行けー!兄様!そこは前にでむがっ!?」
「静かにー!!」
外野の熱が入った声援が届いた訳ではないが。
「で、では私が・・・・・」
孫権は意を決してドキドキしながら慌てて財布を取り出そうとする。
ここで金を払ってに手渡しすれば、きっと一番の笑顔を自分に向けて見せてくれるに違いない。
ががが頑張れ孫権。やれば出来る子。
しかし思いの外財布を取るのに手こずり、そんなことしている間に陸遜が会計をすませようとしていた。
「これぐらい私が出しますよ。孫権殿も食べますか?」
「えっ!?あ、あぁ・・・・・・・うん」
「では2つ」
「へい!毎度ありー!」
ちゃりん
既に金を出していた陸遜に自分が出すなんて言えなくて。
しかもあまりお腹も空いてないのにその場の勢いで頷いてしまった。
ぽとんと陸遜から手渡される肉まん形肉。
ふと見るとは陸遜に向かってありがとー!!と嬉しさいっぱいという具合に顔を綻ばせていた。
とても虚しくなった。
「濃厚で美味しいー!陸遜も食べればいいのに」
「誰かさんと違って頻繁にお腹は空きませんよ」
「あ、そーですか。せっかく美味しいものがあるのにお腹が空かないなんて勿体無い。ね、孫権!美味しいのにね!」
「えっ!?う、そそそうだな!」
振り返って笑顔を見せてくれるが嬉しいが、孫権はまだ口をつけていなかった。
慌ててカプッとかぶりついてみると・・・・・・油っぽくて味の濃い肉系が苦手だったと思い出した。
孫権は半泣きになりながら美味しい・・・・と呪文のように呟いた。
「あー見てたらお腹空いてきたじゃない!凌統同じの買ってきて!」
「え!?無理ですよ今出てったらばれる!!」
「なら周泰!こう、気配を消して」
「・・・・・無謀だ・・・・・」
物陰から再び騒がしい声が聞こえてきているが、幸い達には届いてないのでセーフだ。
「(無理して食べなきゃいいのに・・・・・)」
一方、そんな孫権の様子に気付いている陸遜は呆れながら見ていた。
も話題を振ろうと孫権に同意を求めたが、悪いことしたなと心の中で反省する。
孫権は嘘の笑顔も苦手なようだ。
あまりの孫権の沈んだ、呆けように、少し離れているのを良いことに2人はヒソヒソ相談をする。
「ねぇ、何で孫権あーなっちゃったの?陸遜なんか酷いことしてない?」
「失礼な事言わないで下さい。何もした覚えはありませんよ。・・・・・まぁ、これが苦手で無理してるようですけど」
「普通に美味しいんだけどなぁ。とりあえず、休ませて落ち着かせた方が良いかもね」
「そのようですね。ここらですと・・・・」
陸遜はキョロキョロ辺りを見渡して頭の中の地図と照らし合わせる。
確かもう少し行った先に大きな飲食店があったはず。そこならゆっくり休めるだろう。
「孫権殿、ゆっくり食べたいでしょうし座れる場所にでも・・・・」
陸遜とが後ろを振り返る。
しかし、振り返った瞬間口の動きは止まり、目が点となった。
孫 権 が い な い 。
すぐに辺りを見渡すが、それらしい人影はない。
「・・・・・え?ちょっ孫権!?どこ行った!?」
「嘘でしょう・・・・?私としたことが」
思わず額を押さえる陸遜。なんか痛い。
さっき気をつけようと思った筈なのにもうはぐれた。
自分の失態と孫権のある意味のベタさに苛立ちを覚える。
も、ほんの少し目を離しただけでこの惨事という状況に、開いた口が塞がらない。
一方、尾行組も孫権を見失った事に気付いてまた騒いでいた。
「ほんと、お約束な方ですね」
「ええー!?どこ行ったの兄様!?急に消えたわよ!父様から新たに秘術でも習っ」
「・・・・さっき大人数が通っていった・・・・・孫権様も・・・・・きっとそこ・・・・」
そういうや否や周泰は駆け出した。
尚香の言いかけた言葉がとても気になるが、今は孫権を捜さなければならない。
本当に目を離しているとどんな災難に遭ってるか分かったもんじゃない。あの人はそういう人だ。
凌統も持ち場を離れ捜しに行こうとするが、間髪入れず尚香が凌統の腕を掴んで引き止めた。
「兄様なら周泰に任せれば大丈夫よ。それより達も動き出すみたい」
尚香にとっては兄よりも親友らしい。まぁ一般的にもそうかもしれないが。
凌統が尚香に促されるまま見ると、陸遜とが移動を始めていた。
「まだそう離れてないと思います。こちらから順に」
「二手に分かれよう!その方が早い」
「しかし殿まで迷子になられたら面倒なのですが」
「大丈夫だよ、そんな道が分からなくなるようなとこまで捜しに行かないし、私方向音痴じゃないと思う」
「・・・・・ではこの場所を中心に捜します。見つからなくても、1時間後必ずここに集合して下さい」
「分かった」
「あ、それから孫権殿の名前を大声出して言わないように!一応君主の息子です!騒ぎが大きくなると面倒ですから」
「了解!」
は現在地をしっかり見て記憶に留めてから、孫権の捜索を開始した。
陸遜はを見送ってから別方向に・・・・・・尚香達が隠れている場所に向かってくるので、慌てて2人は身を潜め息を殺した。
が。
「あなた方も協力して下さい。殿(と私)のせっかくの休日を潰す気ですか?」
最初っからバレていたらしい。
陸遜とバッチリ目があってアハハと笑った後、観念した2人はハァと緊張の糸を緩めた。
今まで騒いでいたのも聞こえなかったのではなく聞こえない振りをしていたようで。
陸遜はそれをいちいち言及して買い物を台無しにしたくなかったのだが、尾行を放置していたって結局台無しになった。
若干イライラしている様子の陸遜に、2人は文句もいえない。
それに凌統はもちろん、尚香だっての休日を台無しにする気はない。
ちょっと面白そうだから来ただけだ。周泰に任せれば大丈夫と言っても、見つかるのが早い事に越したことはない。
「仕方ないわね、協力するわ。でもには内緒にしてよ?行けないって言ってたから怒られちゃう」
「姫様が出過ぎた事をしなければ言いませんよ。凌統殿も良いですね?」
「へいへい。まっ、元々俺は捜す気だったけど」
「孫権殿に知られるのは覚悟して下さいね。見つけたらこの場所に誘導してあげて下さい。頼みましたよ」
陸遜がニッコリ笑うと、3人はそれぞれ孫権を捜しに行った。
さて、話の場面を主人公であるに戻そう。
はキョロキョロと、あまり速くないペースで歩きながら捜していた。
大声を出して相手に気付かせるという探し方は出来ないから(というか許可を貰ったとしてもやりたくない)、自分の目で1人1人孫権ではないか確認する必要がある。
あまり入り組んだ通りにも入れないし、かと言って真っ直ぐでも行き過ぎると距離感を無くしてしまうから、時々戻ったりしてみる。
「・・・・・・・・・本当にどこに行ったんだ」
もうすぐ昼時で通りも賑わってきて、あまりの人の多さに呆然と突っ立ってしまう。
流石都。しかも良い天気だしなぁ・・・・・・・お日様あったかーい、と捜すのを止めたくなってしまう自分がいるが、それは叱咤して再度目を凝らす。
どっかの店に入ってるかもしれない。人混み苦手みたいだし。
・・・・ふと、は気付いた。
どうやってはぐれたのかは分からないが、もし、はぐれて、孫権が自分達を捜そうとしても、人混みは避けるんじゃないか。
人混みが恐くて動いてない可能性もある。
その場合は比較的人の少ない場所まで避難するだろうが。
どっちにしろ、こんな分かり易い大通りではなく裏路地のような所に居る可能性が高い。
・・・・今更気付いた事実に、はガクッとうなだれた。
裏路地の方は陸遜が捜してくれているんだろうが、自分は全くの無駄骨じゃないか。
見当違いもいいとこだ。
かと言ってこれから人気のない方に行って自分が迷子になるのは嫌だし、1時間経ったのか分からないけどとりあえず集合場所に戻ろうかな。
一応、まだ捜すのは止めないが。
そう考えて踵を返し歩く。
それから5分も経たない時だった。
歩いている最中、辺りを見渡していると、なんだか異様に目立つ色が見えた。
青だ。この比較的人々の服の色が赤系の街で、青とは珍しい。
妙に目を引く。思わず足を止め、凝視していると、遮っていた人がどけたことにより青の全身像が見えてきた。
見て認識した瞬間、は石のように固まる。
・・・・・・・・・・・・・・とても見覚えがあるのだが。すっごく見覚えがあるのだが。いや孫権じゃないけど。
後ろ姿だけでも結構分かり易い、というか一般人はあんな格好しないし。
だからと言って人々の注目を集めている訳ではなさそうだが、からすれば滅茶苦茶目立つ。
やっと思考が回復してきて、は悩む。
どうしよう。声を掛けてみようか。どうしよう。先に陸遜に知らせるべき?
相手が相手なので戸惑う。しかし周りに側近らしい人はおらず、あくまでポツーンと1人座っているので、は好奇心に負けて近寄り話し掛けた。
「そ、曹操・・・・?」
の声に反応して顔を上げる。
そう、呉の都の、この場所に曹操が居た。
忘れちゃいそうな空気武将とは違う印象の強さ。間違いない。
曹操だ。
曹操はキョトンとを見ていた。
それはまるで子供のようで・・・・・いや、良い表現が見つからないのだが、ともかく真っ直ぐ見つめられ、は何を話せば良いのか分からなかったが、とりあえず聞く。
「こんなとこで何してんの?」
「・・・うむ、わしにも分からん。なんとなく歩いてたらここに辿り着いて、休んでいるだけだからな」
あっけらかんと言う曹操に、は戸惑いを隠せない。
なんとなくって、一体どこから歩いて来た?しかも1人で?1人で魏から呉まで?
いやどんだけ離れてんのか知らないけどさ。
考えながら以前陸遜が言っていた事を思い出す。
『旅行に行って曹操が迷子に…』
思い出しては鼻で笑った。
まさか。いやいやそれはない。だってあれからどんだけ経ったと思ってる?
いつ頃だったかハッキリ覚えてないけど。それはないない。
けど、一応念の為聞いてみる。
「どこから来たの?」
「どこからと言うと、山を越えて森じゃな。
温泉が気持ちよかった」
・・・・・りっくそーん!!迷子めっけたーーー!!
は心の中で大声で叫んだ。大丈夫、口から出してない。
出したくて出したくて唇がワナワナ震えているが、理性はまだ保ってる。
それよりこの体の中の得もいえぬわだかまりを取って欲しい。すっきりしたい。
曹操殴ったらすっきりしそうだけど大丈夫理性は保ってる。
しかも曹操は迷子だと自覚していなさそうだ。
百歩譲って迷子じゃないとしても、これまでどうやって生活したのか考えると神経を疑う。
色々推察しては悶えるに構わず、曹操は堂々と集った。
「お主、わしの事を知ってるみたいじゃな。だったら何か食べ物を奢ってくれ。腹が減って仕方ない」
とても頼んでる者の言い方とは思えないが、何故か憎めない感じはする。
普通に奢ってやるのはいいが、生憎は金を持ってない。右手に食べかけの少し冷えた豚肉はあるが。
「・・・・もう冷めちゃってるけど、これで良ければあげるよ?」
は豚肉を差し出した。
曹操は何も言わず受け取ると、むしゃむしゃと頬張る。
「うむ、なかなかだな」
笑顔を見せる訳でもないが、満足した様子の曹操にはホッと胸を撫で下ろす。
さて、物騒な事になりそうだけど、やっぱここに放置するわけにもいかないしなぁ・・・とは曹操を連れ出すことを決心する。
曹操を呉に売りつけるつもりではないし、何故かそんなに嫌な予感はしない。
少なくとも、これで歴史が変わるとか、そんなことはないと感だが思う。
はニッコリ笑って言った。
「私の知り合いに会えば、たくさんご馳走出来ると思うんだけど。行かない?」
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言い訳
誘い方が超誘拐チックぅー・・・・!(殴)
中途半端なところで分けますよ〜でも文章からしたら中途半端じゃなかったんですよ〜(何だよ)
何故か出てきましたね魏の君主が。
本当は登場する予定無かったんですが、探してたらなんか出てきた。
そんな訳で、更に話がややこしくなります(*´∀`)
曹操は、何故かちっこいイメージがあります。
キャラの中で小さい方とかじゃなくて、完全に身長も精神年齢も7歳ぐらいのお子ちゃm(蹴)
何でだろう・・・・・いや、このヒロインシリーズだけの設定になると思いますが、気持ちちっちゃい。
裏表のない悪戯小僧って感じかな!髭はバッチリ生えてるけどな!(爆)
更新日:2008/01/16