ここは平和です 3
一方、場面を問題の孫権へと移そう。
孫権はやっぱり迷子になっていた。
ちょっと自分の世界に入ってる内に自分と達の間を団体さんが通ったと思ったら押されてそのまま人波に流されていってしまった。
急に周りが知らない者だらけでパニックに陥り、本当に気付いたら見知らぬ場所にいた、という感じだ。
自慢じゃないが孫権はと同じくらい土地勘がない。
いや城下に来るのは初めてじゃないが全くと言って良いほど分かってない。
しかし人の感知能力は高いらしく、巧い具合に人のいない場所にはやってきたのだが。
初めは1人で頑張ろう!と小さな気合いを入れ2人のところに戻ろうとしていた孫権だったが、それも歩くにつれますます分からなくてすっかり滅入っていた。
「(そもそも何故尚香は私を城下などへと・・・・い、いいいやいや、と一緒というのは嬉しいが、せめて周泰を供につけてくれれば・・・・
・・・・と、2人きりで頑張れって・・・・何を頑張れなのか分からないが言うから・・・・
・・・・・・なのに陸遜はいるし、尚香と凌統もなんだかんだいるし)」
孫権はハァと溜め息を吐いた。
得意の感知能力で孫権も尚香達の尾行に気付いていた。気付いてないのはだけだったのだ。
ちなみに周泰もついてきてる事には気付いてない。
周泰は兎に角影に徹しようと、孫権にも気付かれない気配の絶ち方を心得ている。
「り、陸遜〜?〜?」
周りに人がいない状態で弱々しく声にしてみても、届く訳がなく。
そろそろ、知らない場所で1人居る事に耐えられなさそうだ。
ちょっと瞳がウルッとしてきた。
「誰か〜っ、誰かいないか〜!?」
孫権が空に向かって声を張り上げた瞬間―――
「張来来!!」
「っぎゃああああ周泰ー!!!」
孫権は驚きの余り尻餅をついて転んだ。
野 生 の 張 遼 が 現 れ た
ではなく、普通に道の脇にあった壷から飛び出してきた。いや普通じゃないが。
どっから湧いて出た、というツッコミは、こちらも負けじと現れるからしないでおこう。
孫権が反射的に秘伝の合い言葉を叫んだ為、周泰が空から降ってきた。
合い言葉、周泰。それはま(以下略)
孫権を庇うように立つ周泰。両者の間に火花が散った。
とみせかけて。
「なんだ、孫権殿か」
あっさり張遼は緊張の糸を解くと、これはどーもと、お辞儀をした。
周泰も倣ってお辞儀し、和やかな雰囲気の場が出来上がる。
別に孫権狙いで現れた訳ではないようだ。とてもはた迷惑であるが。
張遼は世間話をするように喋り出した。
「実はうちの殿を捜しておりましてな。気配を察知して来たのですが、人違いとはいやお恥ずかしい」
「間違いは・・・・・・・誰にでも・・・ある・・・・・・・気にするな・・・」
軽く孫権を置いてけぼりにしての会話である。
というか割と孫権自身は普通の人なので今この状況が理解できない。
危害はなさそう、という点だけは分かったので大分落ち着いてきて安心しているが。
周泰の黒い背中は孫権にとって心休まる景色である(おかしい)
孫権はちょっと強気になった。
「お、お前1人か?他に仲間はいないのか?」
「今は1人だが、夏候惇殿もこちらに来ている。殿を捜しているから・・・・」
張遼がキョロキョロ辺りを見渡した時、丁度遠くから聞こえてきた叫び声。
「もーとくううう!!!」
「噂をすれば、だ。見つけたかな?では急いでおる故失礼する!」
張遼は爽やかな風を纏って去っていった。
一気に気が抜ける。が、何か大事なことを忘れていないか。
「・・・・孫権様・・・・早くみんなの所へ・・・・・・・・」
周泰に促されてハッとする。
そうだ、あまり攻撃的ではないが他国の武将がウロウロしているのだ。
だって遭遇するかもしれない。万が一を考えると、急いで合流しなければ。
孫権は周泰にしがみつきながら表の通りに出た。
それから数分後、案外近い場所に、みんな居た。
そりゃもうみんな。呉の武将も魏の武将もみんな。
孫権は現場を目撃して凍りついた。ちょっと泣きたくなった。
魏と呉でお互いを牽制している為一定の距離を保っている。
その中央に、と曹操がいた。
なんかちゃっかり曹操がの腰にしがみついている。
表情はあっけらかんとして敵意はなさそうだが、陸遜と夏候惇が先程から物凄いオーラを放っている。
地獄からこんにちは、みたいな。
はというと、凍り付いていた。あ、も泣きそうだ。
「ー!?だだ大丈夫か!?」
遠くから孫権が叫ぶ。
ハッと孫権に気付いたも大声を上げる。
「居たぁああ!良かった!こっちは大丈夫なのに大丈夫じゃなーい!!」
必死なだが意味が分からない。
曹操に捕まって人質になってるのだろうか。
すると陸遜が
「だからさっさとその手を離せば良いんです!!火矢浴びせられたいんですか!?」
切れている。超切れている。
はブンブン首を横に振り一生懸命曹操を引き離そうとするが、曹操は全く表情を変えずへばりついている。
それを見て激昂して夏候惇が叫ぶ。
「孟徳に触るな!拐かしといて何様のつもりだ!?それ以上動いたら叩っ斬ってやる!!」
これに対してもはブンブン首を振り動きを止める。
どっちにしろ死あるのみじゃないか。理不尽だ。
ちなみに主に敵意剥き出しで切れているのは陸遜と夏候惇で、他はいつでも飛び出せるよう臨戦態勢といったところ。
えーっと、状況を整理しよう。
まず何故曹操とが一緒に居るんだ。
陸遜と夏候惇の言い分からすると、は曹操に捕まっていて、曹操もに捕まってるらしい。
何がどーなったらそうなるのだろう。さっき張遼が曹操を捜していると言ってたし、も自分を捜してくれるのに1人になっていたとしたら、そこで会った可能性もあるが。
おっと、ここでの言い分も聞こう。
「だーかーらー!別に曹操に危害を加えようなんて思ってません!陸遜も、曹操に悪意はないって信じてよー!」
しかし曹操は一向に手を離さないし、むしろ陸遜に向かってはニヤリと笑っているように見える。
孫権からしてもちょっとムカつく。無害だとしても悪意はバリバリある感じだ。
ただ、状況は分かった気がする。
陸遜も夏候惇も、他のみんなも勘違いしてるのだ。
ひたすら曹操がややこしくしてるだけ。曹操が悪い。
気付いた事実に、孫権は勇気を振り絞って口を開く。
「み、みんな落ち着け!穏便に・・・」
「お前は黙ってろ!」
「落ち着けと?無理な話しないで下さい」
直ぐに夏候惇と陸遜が遮る訳だが、陸遜お前軍師だったら少しは話を聞け。
孫権も孫権でビクッと反応して涙目になってしまった。
怖くてこれ以上言えない。しかも孫権達までも動く事が許されない。
何が戦闘開始の合図になるか分からないからだ。
運の良いことに、それとも空気の読める民ばかりなのか回りに一般人はいないが、こんな所で暴れて建物を壊す訳にはいかない。
ど、どうしよう。
周泰を見上げるが黙ったまま。
陸遜と夏候惇は聞く耳持たないし、尚香と張遼は戦うのを覚悟している。
大きさは違えど思いは一緒ということだ。
「殿!そんなもの引きずってでも良いからこちらに来なさい!」
「孟徳何をやっている!いい加減目を覚ませ!こっちに来い!」
手っ取り早いのは2人が引き離れることなのだが、何故か曹操は頑なに放れない。
つーか先程から一言も発してない。それが余計夏候惇の不安を煽るのだが、舌出してあっかんべーしたりもしてる。
何このちっこいおっさん。まさかこの状況楽しんでる?
「ちょいと、孫権殿」
「わっぶ!?」
気づいたら隣に凌統がいたのでビックリして大声を上げかけるが、それは凌統の手により口を押さえられ遮られた。
陸遜と夏候惇が中央に意識が集中している隙をついて動いてきたのだ。
といっても元々凌統は一番近くにいたが。
凌統はあくまでヒソヒソと言った。
「いい加減恐いからさ、止めたいんだけど」
「りょ、凌統は分かってるのか?」
「ん?だって曹操に刃物押し付けてる訳じゃないしさ。曹操よりか陸遜と夏候惇の方が害あるっつーの」
凌統は本当に勘弁してくれと表情を固くしていた。
良かった普通の人がいた・・・・!孫権はそんな些細な感動を覚え心が温かくなったが、すぐにそれは消えた。
凌統の作戦のせいである。
「それで何か策があるのか!?」
「策っつーか、孫権殿に頑張ってもらいたいんすよ」
「へ?」
孫権はピキーンと固まる。
凌統は淡々と続けた。
「の力じゃ曹操を引き離せない、とすると外部から助けるしかない訳だが、流石の陸遜も孫権殿には攻撃しないと思うんすよ」
尚香の保障はしないが。
ともかく、孫一家には理性ギリギリのところで手出ししないだろう。
で、孫権がいるところに火矢なんかぶっ放せないから陸遜の攻撃を止めることが出来るし、対夏候惇には攻撃スピードなら誰にも負けないと自負する凌統自身が止めに入れる。
張遼には周泰が行けば良い。
最初は凌統もが曹操に捕まったと疑い焦りを感じたが、確かに文字通り捕まってはいるものの曹操から何か命令してくる訳でもないしに危害を加えるつもりはないと見える。
曹操をほっといて良いのであれば、の安全は確保される。
やっぱり余った尚香が何しでかすかちょっと恐いが、まぁともかく人数は呉側の人間が多いのだから夏候惇がどんなに睨みを効かせようと有利に間違いない。
凌統の作戦は、孫権が1番に飛び込めというものだった。
しかし、本当に陸遜が火矢を飛ばさない保障はないし、凌統が夏候惇を止められる保障もない。
お互い守りたい者を気遣って動けない訳だが、ここで孫権が飛び込んだら確実に夏候惇は動くし陸遜も動く。
どれだけ早く孫権がと曹操を引き離せるか、一か八かだ。
孫権は重大な役回りにたじろいだ。
「むむむ無理!私には無理だ!」
「何言ってんすか!肝心の陸遜が使えないし、今は孫権殿しか頼れねーっつの」
「しょ、尚香が居るじゃないか」
「姫さんに任せたらついでに討ち取りそうだ」
どっちが強いかなんて知らないが、割と安易に尚香が声高々と「敵将、討ち取ったー!」などと言ってるのが想像出来るから恐い。
そんな姫君嫌だし、まだ魏との全面対決は避けたい。
未だ渋る孫権が焦れったくなって凌統は急かす。
「を助けたいだろ?ほら見ろあのの顔!漢になったらどーですか!?」
言われるままにを見る。
は、いつ陸遜に火矢を飛ばされるか(実はこれが一番恐い)分からないし、曹操も離れてくれないしでどうしたら良いのか分からず不安で涙目になっていた。
そして気付けば陸遜と尚香、夏候惇と張遼同士でヒソヒソ話をしている。
向こうも何か作戦を考えているのか。
どちらにしろ完全に頭に血が上っている陸遜が確実に安全な手を使ってくるとは思えない。
「孫権様は・・・・やれば出来る子・・・・・」
上から呟かれた言葉。一番信頼している部下から言われた言葉。
自分しかいない。自分がやるしかない。自分にしか出来ない!
孫権はゴクリと喉を鳴らして覚悟を決めると、形振り構わず、弾き出されるように駆けだした。
「うあああああ!!!」
「行けー!を救えーー!!!」
「なっ!?」
「ちっ、これでも喰らえ!!」
凌統の声援が孫権の背中を後押しする。
動きに気付いた陸遜と尚香が一歩遅れて駆け出す。
と、同時にどこから持ってきたのか夏候惇が中央に向かって壷を思いっ切り転がした。
走っても間に合わないと判断した投げの攻撃。
しかし上手く孫権に当たったとしてもダメージになるのか分からないもの。
何が狙いだ。
残る武将、張遼の姿が見えない。まさか―――
「張来来ー!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
壷から張遼が飛び出してきて、孫権はの場所に辿り着く前に顔面から倒れた。
驚いて、壷と張遼を避けた結果バランスを大いに崩しての顔面ダイブ。
張遼に脅かされるのは本日2回目。孫権はヒーローになれなかった。
ポコンッ
「ぐで」
「もーとくううう!」
状況がどうなったかというと。
一番に2人の元に辿り着いた陸遜が、曹操の頭を軽く叩いて2人を引き離した。
離れたを直ぐに尚香が抱き締め安全を確保する。
夏候惇は悲鳴を上げながら慌てて曹操に駆け寄った。
ちなみに凌統は急変して和やかになったちゃらんぽらんな場の空気に、その場で呆然と突っ立っていた。
何だこれ。俺も勘違いしてたってか・・・・?
周泰は、表情を変えず静かに孫権の元に歩み寄っていた。
は目を見開いて驚く。
あんなに切羽詰った状況があっという間に好転して、アッサリ終わった・・・?
「り、陸遜・・・・?」
が恐る恐る陸遜に声をかけると、既に怒りのオーラは消えていて呆れ顔の彼が安堵の息と共に応える。
「無事で何よりです。・・・・・・なんですかその顔。不服そうですね」
「いや、だって、ボッコボコにされるかと思ったから・・・・」
「本当に火矢を放つとでも?どうやってですか、持ってないのに」
しれっと陸遜は言う。ついでに愛剣の飛燕だって持ってない。
もちろん尚香も武器を所持していなかった。なかなか危ない状況だったのだ。
しかし、そうなってくるとにしてみれば単純に腹立たしい事になる。
「なにじゃああれは演技!?脅すにしたってやりすぎでしょーが!!」
「気から負けていては勝ち目がありませんからね。それにそれはあちらも同じです」
え゛っとは勢いよく後ろを振り向く。
既に曹操は夏候惇に保護されていた。
聞こえてくる声が怒ってたり心配してたりややこしい。
そんな夏候惇の手にはもちろん武器なんかないし、腰に差げていた刀と思っていたものは、よく見ると・・・・
「あれ多分簡単お料理道具一式よ」
「・・・・・・お料理道具一式?」
何それ。なんで惇兄がそんなもん腰から引っ提げてんの。
が理解出来ず首を傾げていると、尚香がそれはそれは分かり易く教えてくれた。
「さっき向こうの通りで売ってたわ、白南瓜のおじさんが」
ま た ア イ ツ か
もう何か変な物があれば全て胡散臭い軍師が関わってると思っていいらしい。
ってゆーか今日もいるってことだな。私が直接会って訴えてやろうか。
がそんな物騒なことを考えていると、隣からまた声が。
「夏候惇殿はよく料理を作られるからな。気に入って買われたのだろう」
いつの間にか隣に張遼がいた。
さっき壷から出てきた人だ。そうか、まさかの張遼も変な人か。
しかもさり気なく猛将の趣味を聞いてしまったようでイメージと合わずちょっと凹む。
が妙に冷めた目で見ているにも関わらず、張遼はふむふむとを観察していた。
「普通の少女に見えるが・・・・いや立派。大体誰しも最初は驚くのだが、貴殿は眉一つ動かさなかったな!」
さっきの壷飛び出しのことを言ってるのだろうか。
張遼が飛び出す前に陸遜に肩を掴まれてたし、それどころじゃなかっただけなのだけど。
っていうかそんなことで感心しないで欲しい。
この人面白がってやってんのか。
「!」
呼ばれて振り向くと、曹操がニンマリ笑っていた。
教えてもないのに名前を覚えられてしまったらしい。光栄なのかなんなのか良く分からない。
しかも
「なかなか楽しかったぞ!」
完全に確信犯の笑みだ。
あのにとって恐怖でしかなかった状況を、楽しんでいたと。
なんて末恐ろしい男だ。流石ともいうけど。
「んじゃ〜」と曹操は軽いノリで夏候惇に引きずられながら去っていった。
「では私も。またお会いしましょうぞ」
そして張遼も律儀に礼をしてから、2人を追って去っていった。
「・・・うぐっ」
「あ、孫権。大丈夫?」
嵐が去っていった後の空気というのは微妙なもので。
孫権はうつ伏せに倒れたまま呻いていた。
顔面着地と余りの醜態、虚しさや恥ずかしさやらとにかく色んな感情が湧き上がって大ダメージを受けていた。
起き上がれない。出来ればこのまま土に埋もれたい。
「兄様ってば何がしたかったの?良く分からなかったわ」
更に妹が追い討ちをかけてくる。
何をしようとしてたにしろ今の状態で終わるわけなく失敗でしかないのだが、それでも聞くのか。
あまりに哀れな孫権を気遣って、凌統が話を逸らしに入った。
「いや〜、本当に陸遜に傷物にされなくて良かったな!」
一応悪いことしたなと責任感じてるのだろう。見た目は軽いが根は良い奴だ。
「失礼ですね、実際火矢を使っていたとしても殿に当てるようなへまはしませんよ」
「ったく、その自信は一体どこから来るんだか」
「本当だよー、こっちの身にもなって欲しい」
小さく笑いがおこる。孫権はこの隙に周泰に起こしてもらって、なんとか気を取り戻していた。
「それにしても、普通に魏や蜀の人間も呉の都に来たり出来るんだね」
「商人などは国を行き来しないといけませんからね。曹操は異例ですが」
「まぁ、そうだよね」
疲れ切った表情の陸遜に納得しては苦笑した。
あんなに簡単に敵国の武将がうろついてるし、その武将も敵国に来たというのに無防備だし、本当に不思議な世界だなって思う。
でも不思議な世界で良かった。だからこうしてみんなで笑える。
尚香が元気に声を張り上げた。
「お腹空いたー!何か食べに行きましょうよ!私、さっきが食べたようなお肉が食べたいわ」
「え?何で尚香がその事知っ・・・・・てそういや何でここにいるの?」
「あっ」
「それに凌統も!2人でデートなんて言わないでしよ?」
「で、でー?」
聞き慣れない言葉に全員顔をしかめる。
ちなみに周泰を咎めないのは、孫権とセットだと思ってるからだ。
急に現れても違和感ないからだろう。
「まさか、初めからいて・・・・・私達の事つけてた!?」
「ち、違うわ!ね?陸遜、さっき偶然会ったのよね?」
「えぇ、お父様から急に買い出しを頼まれたんでしたっけ?急いで欲しいと」
「そう、そう!」
尚香はホッと胸をなで下ろしながら言う。良かった陸遜が味方してくれた。
しかしそう思ったのも束の間。
「なので食べに行く時間はないですね。姫様達はもう帰らないと」
「えっ」
予期せぬ発言。陸遜め、黙っててはくれるが残りの時間を独り占めする気か。
尚香が抗議しようとするが、とっさに凌統に押さえられる。
「まぁまぁもう良いじゃないですか。帰りましょう姫さん」
「ええ〜つまらないわ、もっと遊びたいー!」
「尚香!頼まれて来たんでしょ?だったら早く戻ってあげなきゃ。堅パパ、心配するよ」
「う、う〜ん」
にまで宥められ尚香は渋々黙る。
見ると孫権もグッタリ疲れた様子で帰りそうだ。
孫権が帰るなら周泰だって帰るし、どんなに尚香が渋ろうが凌統も帰るのだから、完全に居心地悪くなってしまう。
今更居心地とか気にする尚香でもないが、空気は読める。
むしろ邪魔してやりたい気もするが、仮を作ってしまったから仕方ない。
「分かったわ、ちゃんと城に戻るから。!いっぱい陸遜に奢ってもらうのよ!」
「はーい!」
「じゃあまた今度な」
尚香と凌統が背を向けて歩き出す。
2人と入れ替わるようにして、孫権はそそくさとと陸遜の前に出た。
「きょ、今日は迷惑かけてすまなかった・・・・」
モジモジと孫権が2人に対して謝る。
本当に迷惑ばかり掛けた。自分の不甲斐なさに失望する。
けれど帰ってくるのは優しい言葉。
「いいって。それより今度、またみんなで遊びに来よう!」
「次はちゃんと城下の地図ぐらい頭に入れて下さいね」
少し陸遜には棘があるようだが、それでも2人はニッコリ笑う。
孫権は自然と心が温まっていくのを実感した。
「あぁ、また今度」
孫権ははにかんだ笑顔で応えると、尚香達の後を追って走った。
おっと孫権の笑顔なんて初めて見たような気がする。ちゃんと笑える人じゃないか。
「・・・・・・・・礼を言う・・・ありがとう・・・・」
「おーい周泰!行くぞー!」
最後に周泰がに向かってお辞儀してから歩き出した。
小さな声でそれだけ呟いた周泰も、ハッキリ表情には表さないがどこか嬉しそう。
4人の姿を見えなくなる最後まで見送ってから、と陸遜はお互いに脱力して口を開いた。
「はぁ、一度に面倒なことが起こりすぎて疲れましたね」
「あれ?珍しく陸遜が弱音吐いたね」
「弱音ではありません。自分の感想を正直に述べたまでです」
「ふーん、そういうことにしといてあげる」
フフッとが笑う。
陸遜はそんなを横目で恨めしそうに見ていた。
呑気に笑って。が曹操と一緒に居るのを見た時は、本当に心臓が握り潰されるかと思った。
連れて行かれるんじゃないかと。
あっという間にいなくなりそうで、最終的に冷静だったと見せかけたけど、本当に余裕がなかった。
自分で自分を嘲笑える。
それでもまた直ぐ側で、この笑顔を見れて良かった。
陸遜は胸の中にあるこの思いを噛みしめる。
「どうしよっか?あ、陸遜寄りたいとこあったんだっけ?」
「・・・・・そうですね。簡単に昼食を済ませてから、私の用事に付き合ってもらいます」
「用事って、何?」
フッと陸遜は笑う。
「行ってみてからのお楽しみ・・・・内緒です」
ほんのり頬を染めた悪戯っ子のような、本人は無自覚なんだろうが周りを温かくさせるような、そんな笑み。
は陸遜の表情を見て固まった。
や、やばい。なに、陸遜ってこんなに柔らかい笑顔出来たんだ、格好良い・・・
は自分で顔が赤くなっていくのを感じていた。
ドキドキドキドキ心臓が鳴り響く。
こんなところで見惚れるとは。
い、いいや、違う!見惚れてなどいない、元々顔立ちがいいから誰だって今のは見惚れるって!反則だ!
自分にそう言い聞かせて納得しても、頬の紅潮が収まる訳ではない。
陸遜はに微笑みかけてから違う方向(たぶん店を探している)を見ていたので顔が赤くなったのに気付かれてないと思うが、収まってくれなきゃ意味がない。
落ち着け、落ち着け、はい深呼吸
「すーはーっ、すーはー」
「何してるんですか」
振り返った陸遜にグサリとツッコミされたが、慌ててやめたので顔が多少赤いのもそのせい〜と勘違いしてくれれば良い。
ふぅ、思わぬところで焦った。でも良いもの見れたのかな?
「行きますよ・・・・・って何か嬉しそうですね」
「あはっ、内緒ー!」
仕返しとばかりにニーッと笑ってみせ。
と陸遜は並んで歩き出した。
「丞相、今日もなかなかの成果ですね!」
「ホウ、自分でも驚く程の大発明ばかりですからね・・・・当然です」
姜維と諸葛亮は物品を運びながら話していた。
こちらの物価は蜀よりも安い。しかし裕福な者も多いから変わった品々を買ってくれる者も多くて、尚且つ値がつけにくい為安易に高額で売れる。
その為よく出稼ぎに他国に訪れるのだ。
そこ、詐欺とか犯罪とか言ってはいけない。
こちらは生きるのにも精一杯なんだ、これも丞相の素晴らしい策の一つ。
「姜維、良く呉の街を、民を見ていきなさい。また近日中に来る事になりますから」
「はい!」
元気よく返事して視線を街並みに移す。
活気よく飛ぶ声、行き交う人々。
ふと、その中に知ってる男と楽しそうに話す女性を、見た。
話しかけはしない。距離は離れてるし別に仲の良い男でもない。
むしろ気に喰わない、戦場で会ったら串刺しにしてやろうなんて思ってる男だ。
だからどーでもいいっちゃどーでもいいのだが。
「(・・・・あの人は誰だろう?)」
何故か目を引いた。
もう既に人混みに紛れて2人の姿は見えなくなっていたが、印象に残ったあの人の横顔。
「(・・・・・まぁいいや、本当に関係ある人なら、また会える)」
クスリと微笑む姜維が出立準備を始めたのは、その1ヶ月後。
END
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言い訳
最後まで読んでくださりありがとうございました!
この話はこれで終わりです。
最後の陸遜の用事というのも、ただ単に達についてくる為の口実に適当に言ってたことだったので
あまり深い意味はないです(笑)
最初そんなつもりなかったとしても、きっと今の陸遜なら記念に何か買ってくれますよ。
なんか尚香に言われたのもあり悔しいから筆一本だけの備品買いで終えるかもしませんが(笑)
まさかの魏が登場しましたが、基本的にこの設定での無双世界は平和なので、ちょくちょく呉以外の武将も登場してくるかと思います!
全ては私の気分次第ですが!(ぇ)
とにかく次は、蜀を団体さんで登場させる為の準備を・・・・(準備かい)
更新日:2008/01/18