ドキ☆恋する男の大争奪戦 5






「あ、言い忘れていたが、制限時間は1時間。料理と裁縫、どちらを先にやっても良い。出来上がった者から順に審査員席に運んでくれ。
 個人的には料理を先に運ぶ方をお薦めする」

ぐぎゅるぅうううう

ガーランドがお腹を鳴らしながら付け足した。
参加者は既に各々動き始めているが、大体が言われずとも料理から手をつけているようだった。
ジタンはというと、競技が始まるや否や直ぐにバッツの腕を引っ張り、無理やり自分の高さに合わせて肩を組んだ。
バッツがキョトンと目を瞬かせていると、ジタンは悪人面になる。

「バ〜ッツ、マラソンの時の借り、ここで返して貰うぜ」
「は?・・・・ま、まさかおれを料理しようってんじゃきゃーーー」
「今はアホにならなくて良い。オレとペア組んで共同作業といこうぜ!」
「あー、なるほど」

ポンと握り拳で手のひらを叩くバッツを余所に、徒党を組む事に成功したジタンは火を起こす為サッサと薪を取りに行く。
ジタンは料理と裁縫、共に得意な方ではないと自覚している。
それに比べこの男は、一見ちゃらんぽらんな癖にかなり器用で何でもこなす。
しかも最終奥義、例え下手でも上手な奴のモノマネをすれば良いんだから本当にずるい。
そんなバッツの特異なスキルに乗っかることが、ジタンの策であった。
そして同じく料理も裁縫も苦手な部類に入るティーダは、そんな2人のやり取りを見て慌ててフリオニールにしがみつく。

「フリオ〜!オレを助けて欲しいっス!」
「あー分かった!分かったから離れろ!」

半べそかかれて来られたら、手伝う以外に選択肢はない。
そもそもこの大会は仲間であるコスモス勢の誰かが勝てば良い話。フリオニールにはティーダの願いを断る理由がなかった。
コスモス軍にて一番お母さんスキルが高い彼に助けを求めるのは正解であり、これでティーダも一先ず安心だ。
残りの面々はあくまで個人プレイらしく、無言で作業に取り掛かっていた。








「・・・・ねぇ、この競技にした理由ってさ」

参加者が悪戦苦闘しながら料理に励んでいるのを横目で見つつ、はアルティミシアに訊ねる。
程よき空腹感。さっき自分でも言ったが、このタイミングでこの競技が来るというのは、もしかしなくとも――
の予想通り、アルティミシアはニッコリ微笑んだ。

「えぇ、お腹空きましたわね」

ありがとうございます時の魔女様!
いつの間にか観客側にもテーブルが用意され、審査員となった面々はワクワク気分で完成を楽しみに待つ。
料理の味に不安なメンバーもいるが、食材は豊富にあるし、きっと美味しい物が食べられるに違いな・・・
そこまで考えただったが、ある男が視界に入った時点で思考が停止し自分の目を疑った。

「ふんふふーん♪」

ケフカが何か得体の知れないものをグツグツと鍋で煮込んでいた。
色は現段階で少し黒味がかった赤。
そこに次から次へと、気になった食材を突っ込んでいるのである。
珍味であるモンスターの皮や、お前どこから取り出したんだよとツッコミしたい、明らかに食材にはならないであろうモンスターの部位まで・・・・・・名前は敢えて伏せておく。
その光景はまさしく怪しい薬を作る悪魔。本人はいたって楽しそうだ。
それを見た周りのメンバーは顔をしかめ、更に臭いがするのだろう、そそくさと距離を置き始めた。

アレ、食べるの?
は恐怖と不安でダラダラと汗を掻きながらセシルやクラウドに目配せするが、2人は見て見ぬフリをしていた。



一方、反対に一番の期待株であるフリオニールは、ケフカと同じく鍋料理を作っている所だった。
鶏肉から本格的に出汁を取るらしい。
自らは鍋の番をし、無難な仕事を相方に任せるようだ。

「ティーダ、この野菜を切ってくれ」
「うっす!」

更にフリオニールは煮込む合間の時間に、もう一つの課題である裁縫を、ティーダの分まで手っ取り早く開始する。
その身のこなし、まさしくプロ。マジパネェっす。
大事な部分をお母さんに任せて安心の息子は、楽しそうに野菜を切り始める。

「楽勝っスねー♪」

ただ手頃なサイズに切れば良いだけなので、問題なく手が進む。
そこへ本当の父親が、猪を丸々一頭担いでやってきた。

「・・・ふーん、お前、いつの間に料理なんか出来るようになったんだ」
「ばっ、当たり前だろ!もうガキじゃねーし」
「おぅおぅ偉そうに!図体だけデカくなったって訳じゃねーんだなぁ」

ジェクトはしみじみとティーダの手付きを見ていた。その表情はニヤニヤとどこか嬉しそう。
言葉も決して貶している訳ではなかった。
ティーダにとっては、それがこそばゆい。嬉しいような、うざったいような。
自然と、包丁を握る手に力が入る。
ジッと野菜を見つめ、慎重に丁寧に。
それでも隣の親父が気になった。

「・・・・・・・・親父は、何作るんスか?」
「あぁ?猪の丸焼きだ。まぁ嬢ちゃんに食わせてやるもんだから、ちょっとぐらい飾り付けしようと思ってな」

そう言いながら、ジェクトはティーダの隣のまな板にドンッと猪を置いた。
その大きさ、全長100センチ。ジェクトにしてみれば小さい猪だが、料理に使う食材としては十分大きい。
それを見たティーダは、自分で切り落とした人参の葉っぱを見て、ある事を思いつく。

「・・・ふーん、ならこの葉っぱ、俺使わないしやるよ」
「おっ!気が利くじゃねーか!」
「なんかこう、着飾ってるみたいにしたら良いんじゃないスか?」
「おぉ!良いな!オメーセンスあるなぁ!」

嬉しそうにバシッと背中を叩かれ、痛かったが、それ以上に違う感情が込み上げて来て、ティーダは自分でも気づかぬ内に頬が緩んでいた。
どうすればもっと良い感じになるだろうか。
考えるのが楽しくなって、本来の作業の手を止めあれやこれや親子で猪に盛り付けをしてみる。

「これならどうっスか!」
「あっ、俺良いこと思いついたわ。ここをこーするとだな・・・」
「おお!親父もやるじゃないっスか!」
「へ!誰の親父だと思ってんだ」
「いや〜俺のセンスの良さは父親譲りだったとは・・・・意外っすね〜」
「で、野菜はいつ切り終わるんだ?ティーダ」

いつの間にか隣まで来ていた本来のパートナーが冷めた目でこちらを見ていた。
声を聞くまで、彼の気配にすら気付いていなかったので、ティーダは驚き飛び上がる。

「ぎゃあっ!?あ、フリオニール!?悪ぃ、直ぐ持ってくから!!」

ティーダは慌ててまな板の上にあった材料をかき集めると、フリオニールの鍋まで走りそれらを放り込む。
しかしその瞬間、フリオニールはとんでもないものを目にして思わず叫んだ。

「待てティーダ!やめろ!」
「へ?」

放った後に、見事に鍋目掛けてダイブするそれを、ティーダも見てしまった。
かき集めた際に紛れ込んでいたであろう1匹のぶり虫が、ちゃぽんと鍋の中に入っていった。



**********



「・・・こ、これは・・・!」

見た目、匂い、共に昔読んだ本に載っていたものと相違ない、魅惑の香り。
皇帝は自分で作った料理・・・・と言って良いのか不明の飲み物の出来栄えに慄いていた。
これをに飲ませれば、が自分のものになる。
ぶっちゃけ媚薬であった。
堂々と自分が作った物をに飲ませることができる、こんなチャンス滅多にないのだから、ついこっそりと作ってしまった。
しかもまだ誰もに料理を出していない。一発で彼女から最高の評価を出し競技を終わらせるチャンス!
皇帝はの元へ駆け寄った――――、が。

ー!お前だけの為に作ったー!これを飲むが良い――」

ガッ

「そんな得体の知れない物、審査基準になりません」

アルティミシアにはバレていた。

「・・・・ケフカよ、お前もあくまで『食べられる料理』を持ってくるように」
「えぇー!?に味見してもらおうと思ったのにぃ〜!」

皇帝に続こうとしていたケフカも、ゴルベーザの手によって止められた。


「・・・・お腹空いたね」
「案外料理まともに出来る奴少ないんじゃね?」
「・・・・・・・」

ティナとオニオンは既に諦めかけている。
不甲斐ないカオス軍の面々を見て、ゴルベーザは何だか申し訳ない気持ちになった。
審査員達がお腹を空かせ待ち侘びていると、ようやくまともに食べられそうな料理を作って来た者がいた。

「おっまたせー!バッツ様特製、ハンバーグだぞー!」
「オレと共同作業だからなっ」

バッツ・ジタンコンビである。
彼らの手には、一口サイズのコロコロしたハンバーグが皿いっぱいに乗っていた。
形も良く見ると様々で、円や四角、三角や星型まで、見た目も楽しい。
ちゃんとハンバーグ以外にも、同じように様々な形をした野菜が添えられていて、工夫がされている。
審査員達の心が踊った。

「へぇ、意外と可愛いことも出来るんじゃのぉ」
「少々子供っぽいが、面白い発想ですとも」
「兄さん、バッツなら味も保証できるよ」

カオス側審査員の反応に、セシルは嬉しそうに微笑む。
も待ってましたとばかりにフォークを手にした。

「バッツ、珍しくタイミング良いじゃない。有難くいっただっきまーす!」
「美味しい!」
「むぅ、ちょっと油っぽすぎではないか」
「4点だな」

審査員1人が5点満点、だけ10点満点で計算し、その場で合計点を弾き出す。
贔屓目・辛口、人それぞれ基準は様々だが、ほとんどの者が美味しいという評価を出した。

「バッツ、ジタンそれぞれ51点を与える!」
「「よっしゃー!!」」

合計60点満点のこの競技、なかなか幸先の良い点数だ。
ジタンとバッツはガッツポーズで喜び、直ぐに残りの課題、裁縫へと動き出す。
そこへ入れ替わるようにスコールがやってきた。
スコールが手にしていたのはどうやら縫い物のようで、料理は後回しにしたらしい。

「・・・・・・・・これ」
「裁縫はゴルベーザとセシルが審査員だ」
「ちょっと借りるね」

セシルがスコールから物を受け取る。
黒いそれは、普段スコールがしている皮の手袋であった。
破けかかっていたのか、確かにほんの少し歪な形で直されている箇所がある。

「頑丈にはなってる」
「遠目から見れば十分綺麗だろう」

裁縫を全員で見ても仕方ないので、セシルとゴルベーザの兄弟コンビが代表として協議の上点数をつける。
こちらは50点満点だ。

「決めたよ。スコールは35点!」

これが今後の基準点となるだろう。



************



「・・・・・・本当にごめんな。手間掛けさせて」
「大丈夫だって言ったろ。それより、手を動かしてくれよ」
「はい・・・・」

シュンとしたままティーダはジャガイモの皮を剥いていた。
作っていた料理に虫を混入させてしまい、作り直しを余儀なくされていたフリオニール達は、他のメンバーより遅れを取ってしまっている。
それを凄く気にしているティーダだが、フリオニールとしてはまだ時間もあるし、むしろ虫を放り込んで顔面蒼白パニック状態になったティーダを宥める方が大変だった。

「こっちの野菜はこんなもんで良いか?」
「あぁ、助かる」

責任を感じたジェクトも手伝ってくれていた。失敗したのは息子、というのも大きいだろう。一緒にはしゃいでいたのも事実だ。
フリオニールは味だけを自分で見て、それ以外を親子に頼み裁縫作業をしていた。
成り行き上、ジェクトもチームになったようなものなので、親子分まとめて縫ってしまう。
親子揃って裁縫が苦手。似た者親子である。
ティーダとジェクトの分はそれぞれの服を回収して直し、自分はへの贈り物として薔薇の刺繍を施したバンダナを作る。
もバンダナ、つけてくれないかな・・・そうしたらお揃いになる、という淡い期待が込められていた。
バンダナに時間を注ぎ込む為には他の物を先に終わらせる必要がある。
ティーダの直しは終わった。次はジェクトの装備を急いで直す。

しかし自分の作業に夢中になると、ついつい周りの監理を怠ってしまう。

「・・・あれ?親父、その人参ちょっと大きすぎないっスか?」
「あ?こんぐらい大丈夫だろ。むしろお前のそのジャガイモ、小さすぎんだろ。煮崩れすんぞ」
「さっきもこの大きさで切ったんだ!食べるのはっスよ!」
「どろどろに溶けちまう程小さくしたってしゃーないだろ!誰の為に手伝ってやってると思ってんだ!!」
「はぁ!?別に頼んでねーだろ!!」

熱くなると周りが見えなくなるところも、親子であった。

「仲間に迷惑掛けといて偉そうにすんじゃねーよ!」
「親父には関係ないだろ!自分の落とし前は自分でつけてんだよ!」
「だったらこれも、お前が切りやがれ!!」

ジェクトは切った野菜をティーダ目掛けてぶん投げる。
ティーダは咄嗟に飛んできた野菜を包丁で振り払う。
戦闘に変わる瞬間だった。

「テメッ食材捨てんじゃねーよ!勿体ねー!」
「アンタが先に台無しにしたんだろ!!」
「喰らえ、ジェクトシュート!!」
「こんにゃろ、それならこっちだって!!!」


ここまで来れば、オチは分かりきっていますよね。




ゴッ

ガッ


ドガッシャーン!!!!!



「!?・・・え・・・・・ぎゃあああああああああああ!!!!


彼らの作っていた鍋に見事ボールがぶつかり、ひっくり返る。
フリオニールの絶叫する声が、辺りに響いた。











−−−−−−−−−−−−−−−−−−

あとがき

オチにしてごめんねフリオニール。安心して、三段オチがアナタを待ってるぜ☆(←冗談です)

私的に、かなり偏見・イメージですが、
秩序組で料理上手い人:フリオニール、セシル、バッツ
普通に出来る人:WOL、オニオン、クラウド、スコール、ヒロイン
苦手な人:ティナ、ジタン、ティーダ

スコールやジタンの線引きは曖昧だけど、ざっくりと分けるならこんなイメージ。
バッツは普通に作れば上手い癖にたまに挑戦して変な味のもの作るとか。
苦手でも、やらないはなし。手伝いは出来るよね、なスタンスなので、切ったりとかまぁ横に誰かいれば普通の料理は出来そう。

しかしカオス軍って、誰が料理出来るの(笑)
良い人ってだけでゴルベーザは家庭的な事出来るイメージがあるんですが、後はジェクトが旅の男料理ぐらいは・・・?なイメージ。
・・・・・・・・・・え、誰か料理出来るの?\(^o^)/


あ、料理と裁縫を一緒の競技にしたのは、プロなフリオニールが書きたかっただけです。
別にいらない競技なのは知ってるよ!\(^o^)/



更新日:2011/07/12