10人の訪問者




しょうもないことで大怪我して、私はみんなに迷惑をかけました。
そこでみっちり2時間、ベッドの上でスコールとジタン、WOLも交えて3人から説教を受けまして、最後に彼らはこう言いました。

「反省してる証拠が欲しいよな」
「・・・・はぁ」
「ケアルでサッサと治したんじゃこいつはまた同じことを繰り返す。自力で治してもらおうか」
「へ?」
「おーそれ良いな!暫くは前線で戦って欲しくないし」
「それでは完全に治るまで大人しく療養していること。戦闘はもちろん、トレーニングも出歩くことも禁止とする」
「あっ、じゃあ酒も禁止な!」
「がーーん」

3人+1人から告げられた制限生活。
ってか見てただけで全く話に参加してなかったバッツ!ここぞとばかりに面白がりやがって。
別に酒豪な訳じゃないんですけど。たまーに美味しくいただく程度なのに、それを禁止されるとは。
しかし反省は本当にしてる。自分の不甲斐なさも。
だから甘んじて罰は受けよう。
自然治癒はより骨を丈夫にし、逞しい身体を作り上げる!
こうしての療養生活は始まった。

今回特に負傷したのは左足と右腕である。
左足は骨折、右腕は内部出血で黒々とした痣になっており、他にも内臓やら何やら全身怪我をしていたが、
罰を受ける前にかけてもらったポーション数個のおかげで、何ヶ月もかかるような大した怪我ではなくなっていた。
おかげで骨折といえど治りかけ。まだまだ痛いけれど、療養生活とは名ばかりの謹慎処分、とも言えよう。
念のため左足と右腕には包帯をグルグル巻きにして固定しているので、自由に動けず、なかなか大変な状況ではあるが。
は楽観的に捉え、ぼーっとしながら寝そべり落ち着いた時を過ごしていた。

コンコン
控え目なノック音。
起き上がりながら返事をすると、フリオニールが小さな鍋のようなものが乗ったお盆を持ち入ってきた。

、具合はどうだ?」
「大丈夫。しいていうなら暇かな」
「そっか。・・・・・・・あの、これ、昼飯まだだったろ?お腹空いてるかと思って」

照れているのか若干頬を染め料理を差し出すフリオニールからお盆ごと受け取り、膝上に置く。
ベッドに入りながらも食べれるようにするためのお盆だ。
蓋を開けると、ほこほこと湯気が立ち上がり、美味しそうな匂いが辺りを包み込んだ。
見た目も、白いお米と黄色い卵が光り輝いて、添えられた若葉でどこぞのレストランの料理ですかというぐらい立派なものである。
思わずは顔を綻ばせ感嘆の声を上げる。

「おおすごーい!」
「あ、熱いから気をつけて食べてくれ、それじゃ!」
「えっ!?ちょ、待っ」

直ぐに言葉を続けようとしても、あっという間にフリオニールは部屋を出て行ってしまい叶わなかった。
・・・・・・・・暇だからちょっとでもお喋りしたかったのに。
っていうかお礼を言ってない。忙しいのかな。
ただ料理を作ってくれただけで感謝すべきなので、有り難くいただくこととする。
・・・・・・・・・うん、想像通り美味しい!
流石フリオニール、良いお嫁さんになれるわ〜と本人にとって不本意極まりないことを思いながら、ほくほく気分で頬張っていた。
すると再びノック音。
ふぁいと間抜けな返事をすると、入ってきたのはティナとオニオンだった。

、心配したよ。大丈夫?」
「うん、ありがとティナ」
「ケアルとかでサッサと治しちゃいけないんだって?何でそんな面倒なこと」
「これは戒めみたいなものだからねぇ・・・・・オニオンにはまだ理解出来ないかな?」

そう言って子供扱いするとオニオンはふてくされる。
誰よりも知識がある彼は、大人びているけど、誰よりも子供なのだ。
それに対し、ティナは純真無垢で知識も少ないが、だから感じとる部分は多々ある。

「大事なこと、だよね。無理しないで欲しいから」
「そだね、気をつけるよ」

ニッコリ笑うと、ティナは安心したように微笑む。
そしていそいそと、モーグリのぬいぐるみを差し出した。

「これ・・・・1人じゃ寂しいと思うから、あげる」
「えっ良いの!?ありがとう!」
「僕からはこれね、暇だろうから」
「うええオニオンからも貰うとは」
「あげるんじゃないよ、貸すんだよ!読み終わったら返してね」

オニオンが差し出したのは分厚い戦術書。
その内容を習得出来るかは分からないが、読み終えるには暫く時間が掛かりそうな厚さで、暇つぶしにはもってこいだ。
オニオンは罰が悪そうに口を尖らせているが、それは照れ隠しなんだろう。可愛い奴だ。
単に勉強しろってことかもしれないが。

「ありがと2人共」
「じゃ、暇になったらまた来てあげるよ」
「またね」

ヒラヒラ手を振りながら2人は部屋を出た。
貰い物はとりあえず脇に置き、それから暫くもぐもぐと料理に手を伸ばす。
食べ終わった頃に、再びコンコンと扉を叩く音が鳴った。

「はーい」

ガチャリと開けて入ってきたのは、鎧を脱いでラフな格好のWOLだ。
寝るとき以外で脱いでるなんて、珍しい。

「どうしたんですか?」

が聞いても、WOLは無言である。
そのままに近付くと、何故か彼はに掛かっていた毛布を捲る。
この時には既にお盆もサイドテーブルに置いておいて毛布の上に何もなかったが、普通いきなり捲るか?
えっなに、と思っているのも束の間、WOLはベッドの上に乗りに跨った。

「ちょっ、ライトさん・・・・?」

とても嫌な予感がする。
っていうかこの状態になった時点で当たらない訳がない。
WOLは全く表情を崩さず、真面目に言った。

「自己治癒に頼るものの早く治って欲しい気持ちは私も同じだ。その為には協力する」
「それと、この状態に何の関係が!?」
「肌を温めあったら早く治るとバッツが言っていた」

バッツぅうううあの野郎ぉおおお!
完全に間違いの情報を伝えられている。
何でWOLに冗談を言うかな、WOLに冗談は通じないって知ってるくせに!
当のWOLは説明は終えたとばかりにの服を脱がしにかかる。
は左腕と右足で必死に抵抗した。

「ぎゃあああ違う!それ病気ん時!っていうか病気の時でもしない!!」
「遠慮する必要はない」
「つーか怪我人!足骨折しててんなこと出来るかぁああ!」
「時には痛みに耐えることもあるだろう」
「全身痛いんですけど!あぁ叫ぶのもホントは辛いのに・・・・もうっ、ライトさん!!」

ちょっと動かしただけで痛い箇所もある。
触れられるのだって無理だ。
なのに、力の入れようもないから完全に防げなくて、胸元を開けられ、の目尻に涙が溜まった。
その時――

コンコン、ガチャ
、入るよ」

肩に荷物を提げた笑顔のセシルが扉を開けた。
もWOLも、ピタッと動きを止めてセシルを見る。
セシルも、笑顔で取っ手を持ったまま固まる形で動きを止め、重なってる2人を見て、静かに言った。

「ごめん、また明日くるよ」

そうして何事もなかったかのように扉を閉め去ろうとするセシルを、は物凄い形相で叫んで止めた。

「待ってぇえセシルぅうう!!助けて!!本気で助けて!!」
「・・・・?どういうこと?」
「襲われてんの!ライトさん勘違いしてるから止めて!!」
「大人数でやった方が良いということか?」
「とりあえず黙ってくれますか」

とんでもない。本当にとんでもないよライトさん。
なんとかセシルに協力してもらってWOLを引き剥がし、正座をさせて事情を説明すると、ようやく理解したセシルは可笑しそうに笑った。

「信じたにしても、大胆なことしたね」
「良くならないのか?」
「動かない方が良いって、ライトも分かってるでしょ?激しくならないの?」
「・・・・・・・・そうか」
「・・・・・・・・・・」

は呆れと恥ずかしさで思わず毛布に顔を埋める。
平然とそういう話をしないで欲しい。っていうかライトさん、納得すべき点がブレてるよ。
本当にこの人には裏がなく悪意もないので質が悪い。
全く表情を変えず反省してんだか分からないWOLはこの際ほっといて、は話題を変えた。

「それよりセシルは?何か用事があった?」
「どうしてるかなって気になって、様子を見に来ただけだよ」

セシルは笑顔で答えると、ついでにと持っていた荷物からあるものを取り出した。

「それと僕の兄さんものこと気にかけててね。に迷惑かけたからって、こんなものくれたよ」

は目が点になった。
セシルが渡してくれたのは、今回の騒動となったクジャ衣装(上下揃った完全版)である。
いらないんですけど。
何を思ってのチョイスなのか。何を思ってゴルベーザからの贈り物がコレなのか。
甚だ疑問というか、開いた口が塞がらなくて眉間に皺を寄せていると、セシルは詳細を説明してくれた。

「兄さんは私の仲間が迷惑をかけてすまなかったって言ってたよ。
なんでもケフカと取引したのに、クジャにやられたんだって?だからお詫びにって・・・・・・欲しかったんでしょ?」
「いやいらないけど」
「兄さんがくれたんだ、いるよね?」
「・・・・・・・・・はい」

は物凄い冷や汗を掻いてクジャ衣装を受け取った。
すっごい、セシルは笑顔なのに、笑顔なのに迫り来る威圧感が半端なく恐い。
彼に兄関連のことで否定してはダメだ。
とりあえずは2つの危機を乗り越え、どっと疲れを感じ睡魔に襲われた。
フリオニールのお粥も食べたし、丁度体が休みたいといってるところなのだろう。
せっかく来てくれたのに申し訳なく思いつつ(まぁ疲れた原因はこの2人だが)、は正直に言った。

「ごめん、眠くなってきた」
「分かった。ゆっくり休んでね」
「添い寝しようか?」
「結構です」

WOLの申し出を即答で断る。
がツンとした態度を見せたので、なんとなくしょんぼりしたように見えたWOLだったが、
それでも彼はのことを気にかけて、部屋を出る際に振り返って力強いことを言ってくれる。

「何かあったら直ぐに呼んでくれ」

その時のWOLは格好良い。
本当、頼りにしてますよ。と口にはしないものの、最後は穏やかに見送った。

誰もいなくなった部屋はとても静かで、何も音がしない。
は上体を寝かせて毛布を被った。
そして、ゆっくり瞼を閉じる。

あぁ・・・・・平和だなぁ・・・・・

怪我をしているせいとはいえ、久しぶりの静寂な気がする。
みんなといると、いっつもワイワイ騒がしくて、楽しいけど、たまには1人も良いよね、と思ってしまう。
1人で行こうとするスコールやWOLは引き止めて一緒に行動するが、それとはまた違う。
みんなには悪いが、尽くしてもらえるし、日頃溜まっていた疲れをとる良い機会でもある。
怪我を治す期間程ストレス溜まってたわけじゃないが。
スヤスヤと寝息を立て始め、安心して眠りに落ちていく。
しかし隔離されていても、の静寂は長続きしなかった。

ガシャーン!!
音に反応してガバッと勢いよくは起き上がると周囲に視線を巡らせた。
窓ガラスが割れ、破片が周囲に飛び散っている。
辛うじてにまでは掛からなかったようだが、危ない。
部屋に侵入してきたのはボール。見覚えのある青いボールだ。
これの持ち主は決まっている。
が声を上げるまでもなく、ダダダダダと慌ただしい足音の後荒々しく扉が開けられた。

「ごめん!!無事っスか!?」

ティーダが開口一番そう叫んで謝った。
寝ていたは、突然のことに驚き目を覚ましていたものの、事態が呑み込めないしテンションも上がらない。
体が危険を察知して反射的に動いただけで、思考がついていけていなかった。
もちろん怒るほどに感情が動かず、ボーっとしながら答える。

「・・・・・・・・無事だけど」

テンション低い以外は至って普通に接したのに、ティーダはを見て顔を真っ青にし物凄く狼狽えた。

「うあああ!!ごめんんん!」
「いや、気にしなくて」
「痛いっスよね!こんな包帯ぐるぐる巻きにしてっ」

どうやらティーダはの足の怪我を自分がやったと勘違いしているようだった。

「いや、これは元々」
「でも凄いっス!こんな瞬時に処置できるなんて」
「いやね、ティーダくん」
「うああ!反省はホントにしてるんだ!ごめん!痛いの痛いの飛んでけー!!
「話を聞け」

そして謝るなら窓割ったことを謝れ。
ティーダはオーバーリアクションで、端から見れば可愛いのかもしれないが、それ以前の暴走っぷりに穏やかに接するなんて出来ない。
良い子、良い子なんだけど空気を読んでくれないかな。私今どういう顔して君を見ているよ。
これでも素直な方なんで分かりやすいと思うんだけどな。
怒る気はなかったの心にも、沸々と苛々した感情が沸き起こった。
ティーダは流石に直感的に危険を感じ取ったのか、慌てて床のガラスを拾い始める。

「窓もごめん!すぐ直すからっ」

しかし、素手でガラスを扱うのは危険な行為。
ハッとは気付いて声を上げた。

「危ないから、急がなくて良いから箒もっといで」
「大丈夫っスよ!これぐらい・・・・・いだ!」

案の定、ティーダの指にガラスが刺さった。
焦ったのに加え余所見しながら拾おうとするからだ。
日頃の戦闘と比べたら全然なんてことないが、怪我は怪我だし本人が痛い思いをしたのだから、手当てしなければ。
は近くに置いてあった救急箱を取りティーダを手招いた。

「こっちおいで、手当てしたげるから」
「い、良いっスよ!これぐらいなんともな」
「いーから、おいで!ばい菌入ってたらどーすんの」

痺れを切らしているに渋々ティーダは近付いて手を見せる。
色々やってしまった手前には逆らえない。しょんぼりしたわんこのようである。
は手早く消毒液を染み込ませた布を傷口にあて絆創膏を貼った。

「これで良し」
「・・・・・ありがとう」

綺麗に貼られた絆創膏を見ながら、ティーダは照れたように礼を言う。
うん?なんだかいつもと雰囲気違うなーと思っていると、ティーダはポツリと呟いた。

、やっぱ年上っスね。お姉ちゃんみたい」
「ぶっ!!」

今更な年齢確認には噴き出した。
何か、今まで年上に見えなかったってか。そんなに馬鹿やってる覚えもないんだけど。
複雑な心境でなんて返せば良いか分からず微妙な顔をしていたが、ティーダは、そんなを気にしてないのか、続けた。

「でもそんなの関係なしに接することが出来て、嬉しいんだ!大好きっスよ!」

彼の今日一番の飛びっ切りの笑顔に、は思わず顔が赤くなった。
不意打ちで笑顔でそんなこと言われたら誰だって照れるし恥ずかしい!
裏表がないのがティーダの良いところであるが、相手がシャイな子だったら確実に身が保たないなぁ、 と勝手に未来のティーダの彼女候補の予想をしつつ、可愛い弟分に先程までの苛々はどこかに飛んでいった。
ティーダは真っ直ぐを見て尋ねた。

はどうっスか?オレのこと、嫌いじゃない?」
「そりゃあ・・・・」

コスモス組に嫌いな人などいない。
もちろん、ティーダだって彼が私を思ってくれるのと同じように大好きだ。
ここは、負けじと飛び切りの笑顔で応えるべきか。
照れる面があるものの、ティーダにいっぱい幸せを分けてもらった気がするので、その嬉しい気持ちのままははにかんで好きだよと伝えようとした。
その時―――

とティーダぁあ」
「ぎゃっ!?」

のっそり、色んな負を背負ってるかのようなオーラ丸出しのジタンが、割れた窓から顔を覗かせた。
一瞬、幽霊が出たかと思って2人の心臓がバクバクバクと速い鼓動を打つ。
実際幽霊じゃなくてもなんか怖い。ユーリなんかはクジャに追われた時のことを思い出した。
ジタンはその場から動かずに、じとーっと2人を見ながら呟いた。

「ティーダ、は療養中なんだぜ?
なのに窓割って何をイチャイチャイチャイチャ、オレだって超我慢してるのに、我慢してるのに、
っていうか早く片付けて立ち去らないと切れるよ、オレが

その言葉を聞いてティーダはEXバーストを発動させると、それはもう物凄い速さでガラスの処理をして割れた窓を外して危険を無くした。
そしてボールを回収すると、良い笑顔で部屋を出る。

「じゃ!」

が呆然と見ている中嵐は去っていった。
そして気付けばジタンが中に入って2人きりである。
超恐いんですけど。
なぁんでこーいう時は置いてくかなぁあああティーダの馬鹿やろー!!と居なくなった彼を恨んだ。
ジタンは部屋の隅に置いてあった椅子を引っ張ってくると、のベッドの前で腰掛けた。

「体調は良いのか?」
「う、うんおかげさまで。動かなければ問題ない」
「そっか」

ジタンは俯いて、もじもじしている。
特に尻尾が落ち着かないようでもじもじしている。
あぁ、そういえば今私を我慢中なんだっけ。
いつも大体挨拶はスキンシップで始まるからなぁ。
ジタンはを叱って罰を課せた手前、あまり甘やかせては、暫く反省させなければと思っていたが、自分の方が保ちそうになかった。
ジタンの様子を見て、ぷっとは小さく笑う。

「無理しなくて良いのに」
「しっ、してる訳ないだろ!それより、本当に反省してる!?」
「ごめんなさい」

若干睨まれ、直ぐは平伏した。
何だかこれではジタンが罰を受けてるみたいだ、と思ってしまったが、からかってはいけないんだろう。
ジタンが怒ることはなかなかないが、だからこそ恐い。
そのジタンは、に触りたい気持ちをググッと抑え、口を開いた。

「・・・・は、さ。どんなに周りが止めようと、戦うの止めないよな」
「うん絶対」
「だよなー」

ジタンはハァァァと盛大な溜め息を吐いた。
思わずは苦笑する。
分かってるくせに、何を言う。
実際に一緒にいる時間はまだまだ少ないが、お互い相手の性根を理解しているつもりだ。
でも、言わずにはいられない。ジタンは嫌みも混ぜて、ちくちくつつく。

「止めても目を離した隙に突っ込んでくもんな」
「そうだね」
「守りたいと思ってる人の身にもなれよ」
「それは分かるよ、私もみんなを守りたいもん」
「女の子なのに何でこんなに逞しく育ったんだか。お母さんの顔が見てみたいー」
「父親似なんで」

しかしこれでもかと屁理屈を返して黙らないを見て、ジタンは闘争意欲をなくした。
本当になんなのこの子。女の子なのに、ただの女の子じゃなくて、男みたいに対等に扱うと喜ぶ女の子。
だからつい、普段レディに対してしないような声を荒げることも、にはしてしまう。
本気で想うからこそ、八つ当たりをしてしまう。

「守られたくないなら、もっと鍛えろよ!」
「おう!」
「心配させんなよ!」
「もちろん!」
「誰よりも強くなれよ!」
「任せとけ!」

返事だけは本当に良い。
ほんの少しイラッときたので、ジタンは意地悪での包帯を巻いてる左足をつついた。
途端に痛みが走り、は声にもならない悲鳴を上げる。
まだまだ口だけだ。それを見て、ジタンは笑う。

「オレはぜってーには負けない。ずっと守ってやるからな!」

少年の決意は固い。
自分より背が低くて、年下で、普段は甘えっ子なジタンが、今は頼りがいがあって大きく見える。
まぁ別に彼は甘えっ子な訳ではなく、甘えるのはに対してだけでそもそもコスモス組の中でもしっかりしており頼れる存在なのだが。
ほんの少し、格好良いなと思ったり。
も笑って、わざとらしく嫌みを言った。

「せいぜい頑張れー」
「とりあえず、今の時点ではオレの勝ちだけどな」
「・・・・・・・・よーし、寝込み襲ってやる」
、それそれだけじゃ済まさないよ?

いまいち恋愛対象として見てくれないにマジで返しつつ、ジタンは身を乗り出すとの肩に両手をつけて、おでこにキスをした。
今はこれだけ。これだけで我慢。今こうして2人きりでいる穏やかな時間だけで愛しいから。
しかしそんな一時は、本当に一時でしかない。

「ちわーっす!窓修理に来てやったぞー!」
「・・・・・・・・・・・」

ムードも何もぶち壊して、バッツとクラウドがノックもせず部屋に入ってきた。
っていうかバッツが先頭切って入ってくるからそうなるのだが、突然の来訪者にこっそりジタンは苦虫を潰したような顔をする。
はWOLに嘘を教えた張本人に会ったら説教かましてやろうと思ってたので、バッツの登場に声を張り上げる。

「バァーッツ!!よくも適当なことをしゃべくりおって・・・!」

ジタンにどいてもらって、バッツ目掛けて人差し指を突き付けると、彼は?を浮かべながらあっけらかんとしていた。

「なんのこと?」
「とぼけんなぁ!純粋なライトさんを騙して!」
「おれはWOLを騙したりなんかしてないぞ?」

尚も不思議そうに首を傾げるバッツの横で、クラウドは黙々と新しい窓ガラスを取りつけている。
日用大工はお手の物、何でもソツなくこなすクラウドです。
ギャーギャー2人が騒ぐ中、更に扉を開ける人がいて、部屋はあっという間に騒がしくなっていく。

「・・・・うるさい」
「夕飯作ったぞ!」
「みんなで食べようか」

機嫌の悪いスコール、そのあとに大きな鍋を持ったフリオニール、ついでWOLとみんなが続々と入ってきて、気付けば部屋はギュウギュウ詰めになる。

「いだっ!頭叩かないでくれる?」
「悪っりぃタマネギちっちゃいから分かんなかった」
「ほら、もっと詰めて」
「はいの分」

いつの間にか全員集合して、強制的にバッツとの言い争いが中断されて、何が何だか分からないにティナが夕飯のスープを手渡す。
今日の夕飯はフリオニールがじっくり時間をかけてコトコト煮込んだビーフシチュー。
彼は今日1日の食事のことだけに集中したらしい。早く部屋を出たのもその為だ(照れ隠しも含まれるが)。
ってそういうことは置いといて。
完全にティナはベッドの上で隣にいるし、クラウドなんかは直したての窓を開けて枠の部分に座ってるし、スコールやフリオニールは立ったままだし、本当に無理やり部屋に入ったようだ。

「みんな、行き渡ったか?」
「ちょ、ちょっと待って!」

WOLの掛け声をは止める。
みんな食べる準備万端でキョトンとを見つめるが、訊かずにはいられない。

「何でみんなここに!?」
「それは」
1人だったら寂しいでしょ?」
「みんな一緒が楽しいっスよ!」
「ということだ」

チームワーク抜群過ぎて、可笑しさがこみ上げるがそれと共に心が温かくなっていくのを感じる。
っていうか、もう夕飯の時間ということは、それだけやっぱりみんなが一緒にいてくれて時間を忘れさせてくれたおかげで。
嬉しすぎて、涙が出そうだ。
ふとすっかり離れた位置に座っているジタンと目が合う。
彼は最初こそ不機嫌そうな顔をしていたが、気持ちはと同じで、仲間が大好きで、当たり前のように息が合うのが嬉しくて。
誇らしげに笑っていた。

「問題ないだろ?」
「・・・・・・・もちろん!」

ジタンの問い掛けに力いっぱい答える。
みんながいるから嬉しくて、楽しくて。
ジタン、はっきり一つ分かったことがあるよ。
誰もいなかったら戦わない。
みんながいるから戦える。

「「「「いっただっきまーす!!」」」」

その日の夕食はひと一倍美味しかった。






END






−−−−−−−−−−−−−−−−−

あとがき

逆ハー目指した結果がコレだよ!
つまり10人全員は疲れるからむ、り殴
あんまり出番のなかった子ごめんなさい。
今回はあんまりメインで書いたことなかった子や、一応前の話を踏まえてなのでジタンにスポット当てたりして、ギャグで突っ切ろうかと思ったんですが、無理でした。
怒る時はちゃんと怒るジタンです。女の子に対して優しいけど、甘やかすだけじゃない。やっぱその方が素敵です。
そしてそれでも全然出番のなかったクラウドごめん。
彼は何だか、もう世間で目立ちまくって悟りを開いてるらしく、特にボケないんだけどツッコミもしてくれないという空気になる方法を会得してr(殴)
まぁある意味ボケなんですけどね。その内クラウド紹介話みたいな感じでポンと1話書きたい。


更新日:2009/07/04