大切なもの探し 2
ドォン
すぐ近くから爆発音が聞こえて、スコールは立ち止まった。
誰かが戦っているのだろうか。しかし今はアイテム探しという名の勝負をしているのでそっちに介入する気はない。
そもそも基本的に他人と関わりたくないのだ、別に正義感がある訳でもなく、誰が戦っていようと興味もない。
ただ敵にしろ仲間にしろ、把握しておくに越したことはない。
こっちに被害が及ばない程度か見定める為でもあるし、万が一仲間がピンチになっておりそれを見逃したのであれば、目覚めが悪くなる。
スコールは崖を登って高い位置に立つ。周辺一体が見渡せる其処から、ハッキリと、戦ってる者―とクジャの姿が見えた。
しかし戦うにしては一方的である。は逃げてばかりで応戦していない。
何やってんだ?あのままじゃ
の進行方向を認識してスコールの顔が強張る。
そのまま行けば崖。行き止まりで逃げ道はない。ずっと逃げっぱなしであったが、そこで反撃に移れるとは思わない。
案の定、崖を目の当たりにし立ちすくんだに、容赦なくクジャの攻撃が直撃する。
それを見た瞬間、考える間もなくスコールは走り出していた。
あの馬鹿!!!
の立っていた崖は崩れて、土埃が舞い上がり、の姿が見えない。
恐らく崖もろとも落ちた。逃げ道はどこにもなかったのだから。
クジャは気が晴れたのか、追撃することなくその場を去る。それは好都合で、スコールに戦うつもりはない。
それより、は。はどうなった――スコールは躊躇いもなくがいなくなった崖を飛び降りた。
土埃で視界が悪い。
右腕で口元を覆いつつ、時間にして数秒落下し、受け身をとって地面に着地した。
はどこだ
気配を探り辺りを見回すと、少し離れた場所に彼女が倒れているのを発見する。
スコールは駆け寄った。駆け寄って、抱き起こし、意識のないに身を凍らせる。
全身に痛々しい傷跡が見られる。酷く腫れ上がって黒々とおぞましい色に変わってしまっている箇所もあれば、左足は明らかに骨折していた。
口から血を流していることから、内臓も損傷しているだろう。
ただし皮膚に酷く焼けたような痕は見られないので、少しだけでもクジャの攻撃は回避できたらしい。
それに気をとられ落下での受け身を取れず岩にぶつかり地面に叩きつけられたようであるが。
それだけでも、大ダメージを受けた事に変わりない。内臓がやられたなら、なおさら。
「おい、!!」
声を掛けたところで、返事があるわけなかった。
「チッ」
スコールは上着を脱いで、まず止血をした。
の腰布を剥いで、固定に使う。次に自身の持っているポーション・・・・・生憎スコールは1個しか持っていなかった。
の道具を漁ってもポーションは出てこない。攻撃を受けた時にほとんどの物を落としたようだ。
くそっ、何でポーション1個しか持っていない。途中にあった筈だ、敵も落とした筈なのに
貴重なアイテムなんかより、何よりも大切な"もの"がここにいるのに――
眉を顰め一瞬迷うも、スコールは自分の口にポーションを含む。
そしての顎を上げ、口を開かせて唇をつけた。
口移しでの体内にポーションを流し込む。
どうすればが助かるか。たった1個のポーション、どこに使えば良いのか分からなかった。
内臓よりも、足の方が重症で、先に回復しなければ一生使えないものになる可能性もある。それとも腕か、少量になろうとも全身か。
分からなかった。ただ、悩むよりは思いが優先して、スコールはに口付けていた。
目覚めて欲しい。気がついて欲しい。何でもないと笑顔を見せて、俺を呆れさせてみろよ・・・!
頼む、飲んでくれ・・・・と念じながら与えれば、聞こえる、微かな音。
の喉が鳴る音が聞こえて、スコールはひとまず安堵した。
飲み終え、唇を離すと腕で拭う。の表情は変わらないが、やれることはやった為、あとは目覚めるのを待つしかなかった。
「・・・・・・・・この、大馬鹿」
呟いた罵声も、彼女には届かない。
スコールはを守るため、そっと傍に静かに座って、神経を鋭くさせていた。
ぼんやりとした意識の中、ひんやりとした空気の感触に、はゆっくり瞼をあげる。
ここどこ・・・・・・私、どうしたんだっけ・・・・・・・・・
記憶を手繰り寄せながら体を起こそうとすると、右腕に激痛が走った。
「いっ・・・・・」
「やっと起きたか」
「・・・・・スコール?」
顔を上げれば直ぐ近くに彼の姿があった。
座って、を見下ろしている。半袖姿の彼の上着は、の上に被さっていた。
脳が覚醒してくると同時に、右腕だけでない、全身から得も言えぬ痛みを感じる。
・・・・・・・そうだ、私クジャの攻撃を避けようとして・・・・・崖から落ちたんだ。
どうやらスコールが手当てしてくれたらしい。
装備品やら何やらから集めた布で、分かる範囲の応急処置が施されていた。
痛みに耐えながら何とか上体を起こし、礼を述べる。
「ありがとスコール。でも何でここに?」
「たまたまアンタが逃げている所を目撃しただけだ」
あぁ、あの逃走劇を見た訳ね、いやいやお恥ずかしい・・・・・・・・って見てたんなら落ちる前に助けてくれないか。
そんなツッコミは今こうして助けてくれたことに変わりないので、心の内だけに留めておこう。
スコールが視線を逸らしたので、も同じ方向を見る。
何かある訳でもなく、単に顔を見たくなかったのかもしれないが・・・・・と辺りの景色に視線を移しつつ、落ちる前とあまり変化のない空に気付いて、は疑問を口にする。
「ねぇ、今何時ぐらいか、分かる?」
「さあな。12時は過ぎてるだろうが」
「やっぱそうだよね、ここの空が変わらないだけで・・・・・2人共心配してるかな」
「・・・・・・・・・さあな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
数秒、辺りを沈黙が包み込む。
全身痛いし言葉を発するのも辛い為黙り込む分にはは良いのだが、スコールも特に何も喋らず、むしろを避けているように思えて仕方がない。
もともとそういう奴と思えばそれで終わりなのだが、何を考えてるのだろう。助けてくれて・・・・目覚めるまで待っていたのであれば、見守っていてくれた?
動きたくても思うように体も動かないは、ジッとスコールを見つめる。
すると彼は、遠くを見つめながらポツリと呟いた。
「死んだかと思った」
「いや〜そんな簡単にはくたばれないよ、うん」
「・・・・・・・・・そうみたいだな」
が明るく振る舞おうとしても、スコールは暗い。
態度はいつもと同じだが、どことなく漂う雰囲気が違う。
怒りもせず、目も合わせない。心が虚ろというか、それどころじゃなく、気が抜けて・・・・・
そこでハッとは気付いた。
・・・・・・・・・心配かけちゃって、我ながらホント、馬鹿なことしちゃったな
はスコールに近付こうと右腕を伸ばした。
が、途端に響く痛みで上手くいかない。スコールは驚いてこちらを見た。
「馬鹿、動くな」
「・・・・・・本当に、ごめんね。心配かけて」
「分かってるならジッとしてろ」
「・・・・・・・・・・うん」
スコールなりの、不器用な心配の仕方。
言葉は端的で鋭いけど、今自分の為に一番になること。
気持ちは十分伝わってるから、嬉しくて、は素直に大人しくしていた。
「回復魔法は使えないのか?」
「気功のこと?アレは体内の巡りを良くして自然治癒を促進するものだから、一気に効果が出るものじゃないの」
そもそも身体中が痛くて満足に集中できない。自分では無理だろう。
が苦笑いすると、スコールは立ち上がった。
「・・・・・・・・・・誰か助けを呼んでくるから、絶対動くなよ」
「うん、待ってる」
スコールには、を担いでこの崖を上がることは出来ない。
歯痒く感じるがこれしかない。
の生死に関わる安否も確認できたし、離れても問題ないだろう。
スコールは振り向くことなく崖を上がっていった。
その数十分後。
「!!」
「おーい、無事かー?」
「!?ジタン、バッツ!!」
崖上から響いてくる声と姿に、は目を丸くした。
思った以上に早かった。流石スコール、仕事が出来ますなぁ、と助かったと実感できるのも相まって、呑気に見上げる。
しかし降りてきたのは2人だけで、スコールがいない。
「スコールは?」
「えっ?会ってないぜ」
「それより・・・・・!無茶して・・・・・!」
ジタンが泣きそうな顔で肩を震わせながら、そっとに触れる。
いつもなら勢い良く飛びつくが、痛々しいその体は、強く抱き締めるだけで悲鳴を上げそうで、出来るだけ触れないよう包み込むしか出来ない。
本当に心配してくれているジタンがいる手前、はスコールのことを口にし難い。
しかしスコールに会ってないというなら何故2人はここに?
「何で此処が分かったの?私が怪我してるってのも」
するとバッツが手持ちのポーションをに掛けながら説明してくれた。
「だって時間になっても来ないし、そりゃ心配すんだろ。
ってことで探しに歩いてたら、途中クジャに会ってさ。聞いたら、にお仕置きしたっていうか」
「クジャは俺が始末した」
「・・・・・・・で、見つけたって訳。いや〜無事で良かったな!うん」
間に、ジタンの物凄く低く黒い呟きが入った。
超恐いんですけど。
その場に居合わせたバッツはしっかり恐怖を目に焼き付けたのか、思い出してかなりの冷や汗と苦笑いを浮かべる。
次会った時は3倍返ししてやろうと思っていたけど、充分過ぎるほどジタンが返してくれたらしい。ご愁傷様。
ジタンは体を起こすと、の背中と太ももの裏に手を入れゆっくりと抱え上げた。
「痛いだろうけど、我慢しててな。ここじゃ満足に治療出来ないから」
ジタンならを抱えてもこの崖を上れる。
しかしそれではスコールが―
はジタンを止めた。
「ちょっと待って、私まだ行けない」
「何で?」
「スコールを待ってるから」
私は彼と約束した。
スコールは戻ってくるから、私はここで動かずに待ってると。屁理屈だが、何故だかそれを破りたくなかった。
その言葉でジタンとバッツはの最初の一言と、手当てされた姿に合点がいった。よく見ればスコールの上着もあるではないか。
しかし、優先すべきはの体。スコールには悪いが入れ違いになろうと移動した方が良い。
スコールもきっとそれを望む筈。
ジタンはを無視して強制的に連れて行こうとしたが、途端には叫び声を上げた。
「いだだだああああ!!」
「えっ!?」
あまりの声量と反応に思わずジタンは動きを止める。
どこかまずいとこ触った!?
慌てての顔を見ると、彼女はいつもより辛そうな笑顔でお願いした。
「へへっ、ごめん、スコールを待ちたいんだ。助けてくれたのはスコールだから」
「でもっ」
「ジタン、聞いてやれば?」
を諌めようとするジタンをバッツが止める。
彼は笑っての肩を持った。
おそらく仲間の中でバッツが一番、の本質を知っている。
「は強情だから、きっと容態を悪化させても残ろうとするし、スコールだって戻ってがいなかったら心配で心配で泣いちゃうぜ」
「おい、誰が泣くって」
「!!」
声がして、3人は崖上を見上げる。そこには呼吸を整えながら不服そうにこちらを見下ろすスコールと、真剣な顔したフリオニールがいた。
息切らしちゃって、バッチリ急いでくれたのが分かる。
ほら、ちゃんと約束守ったよ。
スコールはその場で立ち止まっていたが、フリオニールは直ぐに降りて来てくれるとの容態を診た。
「!大怪我したって聞いて驚いたぞ!無茶するなよ」
「ごめん」
「運ぶ前にちゃんと固定した方が良い。一旦下ろしてくれ」
色々道具を持ってきたフリオニールは、スコールが手当てした箇所を再度丁寧に巻き直したり、添え木をつけて完全に足が曲がらないよう固定したり、運ぶ為の処置を施す。
慣れた手つきで素早く動く彼の手を、とジタン、バッツはマジマジと見ている。
「おー流石フリオニール!俺らのオカン」
「茶化すな。・・・・・・・・・・・・よし、これで大丈夫だ。ジタン頼む」
「任せろ」
再度ジタンに担いでもらい、更にジタンから離れないよう固定して、上がる準備をした。
するとしっかり呼吸も元に戻り、いつも通りの澄ましたスコールが見下ろして言う。
「早く来い」
「今行くよ」
フリオニールが手当てしてくれたおかげで大分痛みが和らぎ、今度はちゃんと笑顔が作れる。
ようやく上に登って、近くで見たスコールの顔は、いつも通りといえどやっぱりどこか泣きかけた表情に見えて、は笑う。
すると気に障ったのか、恐怖の宣告をされる。
「戻ったらWOLに報告して説教2時間だな」
「げっ」
「死ぬよりマシだろ?」
「・・・・・そりゃそうだけど」
「勝負のことも忘れんなよ?最下位は何の罰ゲームにしよっかな〜」
「うぇえ、腕が、腕が痛い」
ジタンとバッツもいつものノリに戻って、いつもの私達に戻って、悪運が強いのか何なのか、生き残れた。日常が戻ってくる。
あぁまたこの時を過ごせることを、誰にでも良い、みんなに感謝しよう。
「ほら、戻ろう」
フリオニールの掛け声で、一行は秩序の聖域に戻っていった。
END
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あとがき
589で書こうと思ってスコールメインになった夢。
普段クールでヒロインが誰と喋ってようと無関心な彼でも、こーいうピンチになると内心焦りまくってくれるだろうという理想です(オイ)
キャラ違ってたらすみません。独り言多いとか、心の声って他に複数キャラがいないと活かされないんだ\(^o^)/
回復手段はポーションの他にケアルもありますが、誰が使えるかよく分からないし、
アッサリそれで回復されてはつまらないので(笑)こうなりました。
あと勝手に捏造ポーションの使い方。外傷の場合怪我した箇所にかける。内臓の場合飲めば良し。
ついでにフリオニールは器用に何でもこなすイメージがあります。
怪我の手当てとかお手の物。みんなの破けた服直すのもきっとフリオニールだよ。
更新日:2009/06/20