悪夢であって欲しかった。
だが、目覚めた自分の身体には、無数の傷痕が痛々しく刻まれていた。
Another.3
再びは自室のベッドで起きた。
最悪の目覚めである。
服ははだけたまま、傷もつけられたまま、好き勝手された後部屋に運ばれただけで、放置されたのだ。
「っ・・・・」
少し動いただけで、傷口が擦れて痛みが蘇る。
は箪笥から包帯と消毒液を取り出し、自ら手当てした。
何故だかポーションが見つからない。
盗られてしまったのだろうが、深く考える気にもなれなかった。
ここから逃げ出そう。
はそれだけを決心していた。
ここにいては駄目だ。何も解決しないだろう。
何故突然アナザーという人格が現れたのか。
他のみんなはどこに行ったのか。
動かなければ、きっと一生バッツ達の性奴隷となる。そんな気がした。
手当てといえど簡易的なもので、早急に身支度を済ませるとは部屋を出た。
建物内には、やはり人の気配がない。
ただフリオニールがどこかにいるかもしれないので、慎重に動かざるを得ない。
遭遇したら全力で逃げる。とにかく逃げることだけを考え、出口を目指した。
幸い、誰に遭遇することもなく、宿営地を抜けることが出来た。
・・・フリオニールも出掛けたのか?
何の気配もない。
胸騒ぎは止まないが、ここは一気に行くしかない!!
は駆け出した。
しかしその瞬間、無情にも頭上から闇が降り注がれた。
「どこ行くの?」
は固まる。
この声は、この声は知っているけど、見るのが怖かった。
また違う、アナザーになっているのか確認するのが怖かった。
けれど、闇にすっぽり覆われてしまった恐怖心は、否定しようがなかった。
「ジタン・・・・っ」
木の上に腰掛けていたジタンは、クルッと一回転しての前に背を向け降り立った。
やはり、着ている服の色が違う。
「どこに行くの?」
「ッ!!」
振り返ったジタンを見た瞬間、は全速力で走った。
ジタンまで、ジタンまで・・・・・・
涙が出そうになるのを堪えながらとにかく走った。
いつもの彼からは見たこともなかった、残忍な微笑み。
自分の中の危険信号が、サイレンのように鳴り響いている。
は森の中に逃げ込んだ。
「そんなに必死になってどーしたの?無駄なことは止めたらどうだい?」
木々の間を縫っていくも、ジタンは直ぐ側まで追いついていた。
そもそもジタンの方が足は速いし、は怪我を負っている。
端から普通に逃げたのでは勝てる訳がない。
は咄嗟に身を翻すと、威嚇として剣を1本投げつける。
アッサリ避けられてしまうが、すぐさま今度は石礫を拾い投げる。
ジタンは片腕で目に入るのを防いだ。
その隙をついては木の裏に隠れた。
ジタンがその場に止まると、辺りはシンと静まり返った。
「・・・ただの子供騙しでつっまんない。これで逃げ切れるなんて思ってないだろ?」
ジタンの声だけが響き渡る。
は剣を構えた状態で、身じろぎ一つしないまま、ジッと機会を窺っていた。
ジタンが自分のいる木の横を通った瞬間、斬る。
後れを取れば死ぬ。
全神経をジタンのいた方へ。
ただし、気配は悟られないよう、研ぎ澄まされた感覚を保つ。
汗が、額から頬を伝った。
「みーつけた」
「!?」
声は頭上から降り注がれた。
ジタンが刃を向けて降ってくる。
咄嗟には剣を構えるが、重量が加算されたジタンの力に耐えることが出来ず、そのまま押し負けて倒された。
「ぐっ!」
カランッ渇いた音が耳に入ってきた。
剣が弾き飛ばされた。
そして喉元には、冷たい刃。
「っ―――」
声を上げることも出来ず、見開かれた瞳にジタンの顔が映った。
生気を感じられないジタンに、の背筋が凍った。
「奇跡の大脱出劇!・・・・・・も呆気ない幕引きだな。は主役なんだから、もっと頑張んなきゃダメだよ」
なに、言ってるの
「次は何しよっか?果敢なお姫様、野蛮な獣達に襲われる?それとも孤独なお姫様、この森をさまよい続けて狂っちゃう?」
これはお芝居なの?
ジタンの楽しそうに笑う声が頭の中に響いていた。
私は舞台の上だけでしか生きられないお人形。
お芝居なら、これは夢?
そう、夢に決まっている。
これは現実ではないのだ。
「選ぶのはだ」
喉元に突きつけられたるは仲間を護る為の刃。
瞳に映るは背中を預ける仲間。
信じるは自分自身。
寄ってらっしゃい観てらっしゃい
お芝居はもう始まっているよ
お客はアナタ
狂った喜劇の始まり始まり
END
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あとがき
役者だったことを特化させると、アナザージタンは口調を気をつけないとクジャになる。笑
それと、前作あとがきにてアナザーシリーズはダークエロと言ってましたが、個人的にジタンと肉体関係は想像出来なかったのでやめました。
みんながみんなヒロインをそういう意味で求めたらあまりキャラに違いが出ませんし。
この先続けられる自信がないけども、それぞれアナザーになったらどんな感じになるかな〜という妄想はあるので、書きたくなったら書きます。
更新日:2011/07/30