おさわり禁止令
コスモスは秩序の聖域の台座に座りながら、重たい口を開いた。
「WOL・・・・貴方を呼んだのは、他でもない、についてです」
一瞬WOLの眉がピクンと動く。
が何かやったのだろうか。
WOLが黙ってコスモスにかしずき、次の言葉を待っていると、それまでの重い空気は一変、コスモスは笑顔で言い放った。
「貴方、最近に対し直ぐ己の獣を見せるようですね?」
・・・・・・・・・・つまりそれは、私に説教か?
がどうこうではなく、どうやらWOLがに、という話らしい。
しかしそう言われても、いまいちピンと来ない。
自分は素直に自分の良心に従っているだけだし、男は皆獣ではないのか?
元々獣の生物に、その部分を見せるななどという無理難題をコスモスは与えようとしているのか、とWOLはブレた方向に思考を働かせていた。
表情を変えずWOLが黙り込んでいると、コスモスはニッコリ笑ったまま追撃をする。
「そのような状態では、クリスタルは貴方に輝きませんよ」
「私だけでなく、とティナ以外ではないのか?」
「その真意は」
「女装をして女になりきれ、ということか」
ザクッ
WOLの眼前に光の刃が突き刺さった。
もちろん出所はコスモス。
彼女が神であることは力が揺らいでいようと変わりない。
ただWOLも脅しをかけられようとも揺らがないので、激しくこの場にツッコミが足りないのは確実だ。
会話になってない原因はWOLが思考を曲げるどころではなく次元の狭間に放り込んでしまったからだが。
コスモスが切れるのも無理はない。
ただ遠回しに話したり脅すのでは全くWOLには通じないので、仕方なくコスモスは殺気を抑えた。
「しばらくに触れるな、ということです。無論共に生活している以上全くとは言いませんが・・・その内なる獣を押さえるのです」
「ムラムラするなということか」
「ムラムラしても良いですが行動に移さぬよう」
互いにハッキリ淀みなく澄んだ瞳で見つめ合い、ようやく意思が通じ合ったが、やはり圧倒的にツッコミが足りない。
コスモスが消え、WOLはその場に1人残されると、先程のやり取りを思い返す。
―――にムラムラしてはいけない
いやムラムラはしていいけど、そのムラムラを抑えろと
「・・・・・・・・どういうことだ?」
ここで初めてWOLは眉間に皺を寄せ呟いたが、それ以前に何故コスモスとそんな会話が成り立ったのか聞きたい。
「あ、ライトさん!おかえりー」
仲間が休んでいるところへ戻ると、早速問題の人物であるが声をかけてくれた。
何気なくをジッと見るが、なんとも思わない。
今の心の中の獣はピヨピヨ可愛いひよこだ。
いつものことだが、黙って何も言わないWOLをキョトンとした目でが見上げる。
可愛い。が、それ以上の感情は起こらない。
何気なく手を伸ばし、の頭を撫でてみるが、ほんのり和むだけでムラムラしない。
大丈夫だ――そう思っていると、横から、笛の音と共にジタンが飛んできた。
「ピー!イエローカード!お触り禁止令出てんだろ!」
「・・・・・・・は?」
WOLの代わりにが怪訝な顔をする。
WOLも忘れていた訳じゃないが・・・・ジタンに言われると思わなかった。
ジタンはこれまたご丁寧に本当に黄色いカードを突き出しながら、説明した。
「コスモスから頼まれてんだよ、しばらくWOLはに触らないから、俺に見張っててくれって」
「何それ、何で急にそんなこと」
「知らないけど、コスモスが言うんだぜ?WOLは心当たりあるんだろ?」
「・・・・・・・ムラムラ」
「へ?」
「どうやら私に課せられた試練のようだ」
WOLは1人納得するとその場を離れた。
はちんぷんかんぷんである。
WOLの後を追おうかと思ったが、ジタンに腕を掴まれ遮られた。
「は俺と遊ぼーぜ」
「悪いけど後で。ライトさんが気になる」
「が行ったって仕方ないだろ」
「分かんないけど、試練って言ってたし私が関係してるならほっとけないでしょ」
はジタンの手を振り解く。
余計なお世話かもしれないが、いくらコスモスからの指示でもそんな理不尽なこと、理由を知らずに従えない。
ジタンも何故だか気にはなっていたので、の意志が固いことを見て諦めた。
「・・・・・ったく、しょうがないなー。見逃してやるから確認してこいよ」
「ありがと」
ヒラヒラ手を振って見送ってくれるジタンに感謝しつつ、はWOLの後を追った。
WOLは直ぐ脇を川が流れる岩場に来ていた。
特にここに来た意味はないが、とりあえずから離れようと思っての行動である。
これから何しよう。
せっかく川にきたし武器の手入れでもするか。
WOLは岩にこしかけどこからか布を取り出すとキュイキュイ剣を磨いた。
すると僅かに背後に気配を感じる。
敵か。
WOLが手に持っていた剣を水平にして横に突き出すと、背後の気配はビクッと反応して姿を現した。
「すいません私です」
「なんだ、か」
WOLは剣を下ろした。それを見てはホッとする。
癖で気配を消してしまったが、危ない危ない。
他の仲間ならまだしも、WOLは敵だと思うと確認せずに切りかかってくる可能性がある。
はおどけながらWOLの側に近付くも、口は単刀直入に訊ねていた。
「コスモスに何を言われたんですか?」
「さっきジタンが言った通りだ」
「それじゃ分かりません。理由を教えて下さい」
何故に触れてはいけないのか。
しかしそんなのWOLだって知らなかった。
クリスタルがどうの言われたが、具体的にそれがどう繋がっていくのか、分からず終いである。
答えられないWOLは黙る訳だが、それが返っての不安を煽った。
「私が悪いんですか?何にも身に覚えがないんですけど」
別に普段から触れて欲しいなんて思ってる訳じゃないが、頭を撫でるぐらいのスキンシップがなくなってしまっては寂しい。
特にWOLはあまりそういうことをしないからスキンシップは貴重なのだ。
時々思い切った事はするが。
そんな訳で納得いかない。
避けられることと一緒だし、そんなことがあって良いのか。
そうが真剣にWOLを見つめていると、彼は立ち上がってに近付いた。
そしてスッとの頬に手を添える。
いきなりの行動にえっ、とが固まると、WOLは再びをジッと見つめてから呟いた。
「やはりムラムラしない」
「はい?」
「は悪くない。私の気分の問題だ」
サラッと流したWOLだが、今度はハッキリ聞こえたであろう単語にはフルで思考を働かせた。
ムラムラって言ったよね今ムラムラって。
それって・・・・・相手に対してムラムラするって意味・・・・・
ハッと気付いては顔を真っ赤にした。
「ちょっと、まさかそれが理ゆ」
「ピー!イエローカードだ。距離が近い」
再び聞こえた笛の音に2人はバッと反応する。
そこにはジタンと同じようにイエローカードを見せているクラウドの姿があった。
が驚いた顔して口をパクパクさせていると、クラウドは当然のように説明した。
「コスモスからの仕事だ。2人を見張るよう言われている」
見張ってる分には戦闘や他の仕事をしなくて済むので、PSPを片手にクラウドは楽しげだ。
そんなことより、見張りってジタンだけじゃないの!?
嫌な予感がして、はとっさにWOLの腕を引いて抱きついてみせる。
「ピー!い、イエローカードだぞ2人共!!」
すると案の定、他にも黄色いカードを持った人――というかフリオニールが顔を赤らめながらどこからともなく現れた。
さらに前方、小高い丘の上からセシルが双眼鏡を使ってこっちを監視しているのに気付く。
どんだけみんなに頼んでるんだコスモス。
WOLもあまりの人数の多さに目をパチクリさせている。
あ、瞬きするライトさん可愛い。
じゃなくて。
「どーいうつもりか説明してもらいましょーか」
「えっいや、これはコスモスから頼まれたことで・・・・!」
とりあえず一番責めやすく吐いてくれそうなフリオニールにガンを飛ばしてにじりよった。
彼は怒っているにしどろもどろになって泣きそうだ。
「べ、別に、悪意があって、やってる訳じゃなくってだな」
「いくら悪意がなかろうが何やってんのか分かってんの、って聞いてるの」
「イジメ、良くない」
「どっちがイジメにあってると思ってんだぁああああ!」
ボソッと呟いたクラウドを、はくわっと眼孔と口を開き恐ろしい形相で睨みつけた。
そして流石のWOLも、素朴な疑問をもつ。
「皆・・・・・他にやることはないのか?」
「今はこれが最優先事項だ」
ピコピコと電子音を鳴らしながら答えるクラウドにとっては、確かに最優先事項だ。
会話する時ぐらいゲームをやめろ。
帰りそうにない周囲を見て、WOLはひと息吐く。
コスモスも悪乗りが酷いな。私はまだムラムラさえしてないというのに。
に触れない、それだって別に周りが心配する程困難ではない。
側にいなければ問題ないだろう。
「あ、ライトさん!」
何事もなく去ろうとするWOLを見て、慌ててが後を追う。
来なくていいのに。
としてはまだ問題解決していないのでWOLと離れるつもりはなかった訳だが、しかし、そう上手くはいかなかった。
ここは川が隣にある水辺。
ゴツゴツした岩や石ころで足場が悪い。
注意して歩いていれば問題なかったろうが、うっかりは足を滑らせた。
「うひゃ!!?」
とっさに手を伸ばし何かに掴まろうとする。
その何かがWOLのマントであった結果、2人仲良く横滑りして川に落ちた。
といっても物凄く浅い場所なので、濡れた云々より石に当たった痛みがやってくる。
フリオニールとクラウドが駆け寄ってきた。
「おーい大丈夫か?」
「ごめんライトさん、大丈夫!?」
急いで上体を起こしWOLの安否を確認する。
鎧を身につけているため衝撃だけで痛みはなさそうだが、ボーっとしているWOLには焦る。
何てことしてんだ自分!1人でこければいいものをライトさん巻き込んで!!
フリオニールとクラウドも近くに寄って、不安気にWOLを見つめていると、彼は、いつもの無表情でスッとを抱え上げて立った。
ん?との思考が止まる。
WOLは一言呟いた。
「我慢良くない」
水が滴り艶のある髪。
濡れてぬっとりまとわりついている服。
若干、頬がピンク色に染まっているような。
いや、それは完全に思い込みかもしれないが。
水に濡れたを見て、WOLの中のひよこがベヒーモスに変わる瞬間であった。
「ちょっ、ライトさ・・・・・ひゃ!」
太ももの裏側にさっと手を滑らされて、思わずの声が上擦る。
まさしくお持ち帰りの図。
何食わぬ顔でを連れて去ろうとするWOLに、一斉に笛の音が鳴った。
「ピピピー!レッドカードぉおお!!」
**********
「何でわざわざこんなことしたの?」
「それはもちろん、公平にする為ですよ」
首を傾げるセシルに、コスモスは穏やかに答える。
双眼鏡で覗いていた先では、を救出せんとわーぎゃー騒動が起きている。
もちろんその中心はWOLで、WOLが何か騒いでるという訳ではないが、みんなと一緒になって攻防を繰り広げるなど珍しい。
「WOLはずっと、皆の前では我関せずを貫いていました。だから皆、WOLはのことを何とも思っていないと。
しかしそれでは、不公平でしょう?」
「じゃあクリスタルがって言うのは・・・・・」
「誰かを想う力が妨げになるはずありません」
コスモスはクスリと笑った。
***********
「なぁんでおれには何も伝えてくれなかったんだ〜!?」
一方また別の場所で、バッツがスコールに向かって愚痴を喚いていた。
スコールの側には、赤と黄色のカードに笛がある。
スコールもコスモスにWOLとを見張るよう頼まれていたのだが、彼はこの任務を放棄していた。
それに比べ、バッツはコスモスに呼び出されなかったようで、こんな楽しいこと、仲間外れにされたと拗ねているようだ。
こんなくだらない任務、よくやりたがるな・・・・とスコールには理解不能である。
「おれだってピーって笛吹いてレッドカードぉおお!って言いたかったのに」
「オニオンとティナも呼ばれてないだろう」
「あいつらは別だろ、獣WOLに立ち向かえないだろうし」
コスモスの良心的にオニオンとティナを外すのは良いとして、何故バッツまで外されたのか。
一番喜んでやりそうなのに、と誰もが思うであろうが、スコールはなんとなくその理由に気づいていた。
「・・・・・・ダークホースだからな、お前は」
「へ?うま?」
「何でもない」
ジタン以上に周りを気にせずに接しているが、それが友情なのか愛情なのか。
WOLはに仲間以上の感情を抱いてる、と今回の騒動で分かった訳だが、そうなるとバッツの真意こそ謎である。
バッツは見張る側より、見張られる側になるべきだ。
を巡る関係が、ほんの少しだけ変化した。
END
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あとがき
今回の話により、何が変わるかと言いますと
WOLさんのセクハラがオープンになります\(^o^)/
まぁだからどうしたって話なんですがね。続きのつもりで何か書いてる話がある訳でもないので。
更にオープンになるとはいえやはりWOLさんの気まぐれ行動なので、これから書くにしても変化ないかm(殴)
ついでに、ウチのコスモスは肝っ玉です。強いです。子供達のことをちゃんと見てます。
あと別に悪気があった訳ではないんですが、唯一ティーダだけ名前さえも出てなかったね。ごめん(∀`*ゞ)テヘッ
更新日:2009/12/12