01.ただの腐れ縁(・・・だよね?)





アイテム稼ぎに出発する為の装備を整えていると、セシルに声を掛けられる。

、悪いんだけど、バッツに会ったら『僕の失くし物は見つかった』って伝えといてくれない?」
「え?良いけど、今日私とバッツは別行動だよ?」
「うん、でも一応。に伝えておけば、伝わりやすいかと思って」

ニコッと笑うセシルに、は首を傾げる。
バッツは今朝方仲間の中でも一番に1人で秩序の聖域を出て行った。
大抵、安全の為にも誰かと共に出掛ける事が多く、特にバッツが1人で旅立って行ったのは珍しい。
もこれから1人で行こうとしているのだから、例外は多いのかもしれないが、それぞれの目的が違う場合もあるのだから暗黙の了解となっている。
日が暮れる頃には、大体仲間は帰ってくる。
セシルもそれまで待てばに頼まずとも伝えられる訳だが、わざわざ可能性を増やしたのには、なにか意味があるのだろうか。

「あ、急いでる訳じゃないから、たまたま逢ったら、で良いからね」
「うん、分かった」

不思議に思う面もあるが、セシルはとバッツが出会うと予感したのだろう。
こういう時、実は自分でもなんとなくどっかでバッタリ出会うんじゃないかと勘が働くから、不思議なものである。
セシルに見送られながら、は秩序の聖域を出発した。






月の渓谷。

は小高い崖から眼下を覗いていた。
イミテーションが1体。まだこちらには気付いていないのだろう、ゆっくりと前に進むだけでそれ以外に動きはない。
途中見掛けた敵は大体倒したが、それは良く見掛ける種類の敵であり、今いるやつは、ここにいるのが珍しい、そんな気がする。
戦うべきか、体力を温存して先に進むべきか。
今までの敵より格上のオーラを感じ、自然と緊張と好奇心が心の中に湧き起こってくる。

「(先制攻撃しかけるか・・・・)」

多少強い敵でも、先制攻撃でそのままコンボを繋げられれば、どうにかなるかもしれない。
余裕がある時こそ、冒険はしてみるべきだ。
は覚悟を決め両剣の鞘に手をかける。
ジャンプして、重力の赴くまま加速し第一手を斬りつけようとしたところで―――

「待ーった!そいつはスルーしようぜ!」
「なっ!?」

垂直の崖を走ってきたバッツに腰を掴まれ、そのまま抱きかかえられて敵と接触する前に連れて行かれる。
いつの間に、ってゆーか何故逃げる!?色んなの疑問もお構いなしに、先程のイミテーションの気配が無くなるところまで勢いのまま逃げたバッツは、ふぅっ、と一息つくとを下ろした。

「何すんの!せっかく戦おうと思ったのに」
「いやー、なんか嫌な予感したからさー、アレはやめとこう、な!」

笑顔であるものの、肩を掴んで力強く説得されて、はそれ以上文句が言えない。
なんだかんだコイツの勘は当たる。まだ戦うにはレベルが足りなかったのかもしれない。
少々腑に落ちない部分はあるものの、もう離れてしまったので戻る気にもなれなかった。
バッツは次の行き先を考えているのか、キョロキョロと辺りを見渡していた。

「(・・・それにしても)」

自分の勘も当たった事に、内心驚きがあるものの、キチンと収まるべきところに着いた気がして心地良い。
なかなかもの凄いタイミングである。しかも自分が見つけたんじゃない、向こうからやって来たんだから。

「それにしても、良く私の事見つけたね」
「おれ運良いからな〜」
「悪運だよね」
「いや〜アイテム運もあるんだなコレが。ほら、そろそろ腕輪装備、新しいの欲しかっただろ?」

そう言って、何やらゴソゴソと腰に提げている袋から綺麗な装飾の腕輪を取り出した。

「やるよ。おれ他に合うやつ持ってるし」
「おーありがとう!助かるー」
「もう長いこと使ってたもんなーそれ」

良く見てらっしゃる。
この間レベルが上がって、一段階上の装備を欲していたところだった。
ラッキー、と貰った腕輪を装備し、古い物を袋に仕舞い込む。
と、ふと自分もバッツが以前手に入れたものの放置しているアイテムの事を思い出した。
ほんの数日前のこと、しかもコイツは大雑把なところがあるので、恐らく未だに放置している筈。

「これ換金するついでに、バッツのも換金しといてあげようか?」
「へ?おれ何かまだ持ってたっけ?」
「この前手に入れてた祝福の珠、まだゴロゴロ持ってるんじゃないの?」
「あー!そう、そうだ、入ったままだったの忘れてた」

いやー悪いなとバッツは袋から祝福の珠を3個取り出す。
予想通り、あれからバッツがモーグリを呼んでいるところを見た覚えがなかったので、もしやと思ったのだ。
そして、ここに来る前に頼まれていた言伝も思い出し、は受け取りながらバッツに言う。

「あとセシルからの伝言。『僕の失くした物は見つかった』って」
「えっほんと!?そっかー、良かった!」
「何があったの?」
「いやー、なんか昨日武器が壊れたらしくて、直そうとしたけど持ってた筈の素材が失くなってたらしく、いくら古い武器があると言っても、万全じゃないだろ?
 だからいっそのこと、素材を調達し直すか、新しい武器手に入れて来てやろうと思って」

だから朝一番に1人でさっさと出掛けたのか。
セシルの事だから、申し訳なく思ってバッツに素材調達の強要なんかしてないだろうし、バッツもバッツで自分のアイテム稼ぎのついでと話を丸め込めていたのだろう。
お目当ての槍を手に入れている様子はなかった。
1つの目的が無くなったバッツは、にとある提案をする。

「なぁ、こっからは一緒に行動しようぜ!」
「良いけど、帰る訳じゃないの?」
「あぁ、セシル関係なしにもともと今日は散策する予定だったから」

バッツはニシシッと少々企みのある顔で言った。

「実はここに来る途中、ちょっと行ってみたい次元を見つけたんだよな〜」
「未開拓地?」
「たぶんな!感じた事ない気配が少し洩れてた」

初めて行くような地に、1人で入っていくのは危険である。
バッツなら尚更、恐らく強い敵の気配とも感じたのだろう、1人で入ることは見送っていたようだった。
先ほど強い敵から逃げたばかりであるが、探求の心に火が点いた彼と一緒なら、まぁ大丈夫だろう。
やばくなったら全力で逃げるのみ!!というのは、互いに共通認識されている事である。

出会った順番は違えど、時期で言えば大して差がないコスモスの仲間達だが、何故だかバッツとは息が合う。
まるで長年を共にした戦友のよう。実際はそんなことないのに。







「(ただの腐れ縁・・・・・だよね?)」

そんなことない筈のに、そう思わせる。

「ほーら、行っくぞー!」

気付けばバッツが少し歩いた先にいる。
は余計な考えを振り払って、バッツの後を追い駆けた。





END





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あとがき

続けるつもりですが、一応読みやすいように1話完結となるよう書く予定です。
腐れ縁って皮肉な言葉ですけど、幻水で初めて腐れ縁に出会った私にとっては好きな言葉です。
実際調べてみたら、良い関係じゃないことだけど。でも腐れ縁ならば、互いの良いところも見る機会がある筈なのよ!
ということで、腐っても切れない縁、なんだかんだ一緒にいる。
バッツさんはその方向でヒロインと一緒にいて欲しいです。



更新日:2011/07/25