江東の水遊び





















季節は夏。

日中は30℃を超すこの地域で、クーラーや扇風機無しで過ごすというのはにとって未知の世界だった。
いや暑いだろうなという予想はしてた。キツいだろうなと。
しかし想像と実際に体感するのでは雲低の差がある。
は卓に突っ伏して呻いていた。



「暑ーい・・・・」



仕事も放置してだらんとしている。
その前ではいつも通りの様子で陸遜が執務に励んでいた。
あの赤い上着のようなものは脱いでいるが、何故かとても涼しそうに見える。何故だ。



「暑いー・・・・」



呻いても何も変わらないことは分かっているが、「暑い」以外に言う言葉が見つからない。
その内自身の熱が伝わって卓も熱く感じてきたので、はのそりと立ち上がると壁に向かった。
ぺたりと頬、腕、胸と接触できるだけ壁にくっつく。

あー、石だからかひんやりして気持ち良いー

壁にへばりつくを見て不気味に思ったのか、変な顔をしながらもやっと陸遜が口を開いた。



「・・・・・・殿、何をやっているのですか」

「んーこうしてると冷たくて気持ち良いのー」



はにへりゃと頬を緩めながら言った。
つくづくの行動は不可解で呆れる。
本当に冷たいとしても、普通壁にへばりつくだろうか。
だがより慣れているとは言え陸遜だって暑いし我慢しているこの状況、怒るなりツッコミする気力は湧かなかった。
面倒だがとにかく今は目の前の執務を片づけておかないと。

この前サボった時のツケが回っていたのだった。

なのにがサボるどころか邪魔をする。



「海行きたい〜川でもいいや、ねーねー陸遜連れてって〜」

「行ってどうするんですか」

「えっ、泳ぐに決まってるじゃない!本当は浮き輪でプカプカしてるのが好きなんだけど」



は浮き輪に乗って見渡す限りの海の中を漂う姿を想像してウットリした。
実際そんな状況になった時は遭難してる可能性が高いが、ともかくそれはそれは気持ちの良いものだろう。
ああ行きたいすっごく行きたい。想像したら余計に行きたくなってきた。
は壁から離れツカツカと陸遜の元に歩み寄った。



「行こう陸遜!息抜きも必要だよしょっちゅう息抜きしてる姿見るけど



出掛ける口実をと思い口走ってみたものの普段の彼を思い出して後半声が小さく棒読みになった。
陸遜も自覚してるのか黙ったままだ。あ、怒らせちゃったかな。
は機嫌取りにとわざとらしく猫なで声で言った。



「ねーねー連れてって」

「気持ち悪いので止めて下さい」

「ちくしょー言ったな、連れてってくれたら止めてやる」

「・・・・・・・・・・・」

「みんなぁ〜陸遜が虐めるよーう、虐めるにゃ〜・・・・・あ、殿〜!聞いて陸遜が」

「なっ!?」



何故か物凄いタイミングで部屋の前を通りかかった君主孫堅にがぶりっ娘状態のまま駆け寄った。

やばいやばいあの人馬鹿だからの言うこと全部信じるしかもあんな甘い声で喋って・・・!

陸遜はガタリと荒々しく椅子から立ち上がり2人の元に向かう。
陸遜が追いつく前には喋った。



「陸遜が海に連れてってくれるって!」

「おお良いな海!俺も行きたい、陸遜連れてってくれ!」



しかしそれは、甘い声でも何でもなく普通のトーンで、はしっかり孫堅の前ではぶりっ娘をやめ、普通に約束を取り付けたのだ。
まさかのにハメられた気がして、陸遜は脱力するのだった。



「・・・・はぁ。海は遠いので行くなら川ですよ」

「やったー!」



は孫堅と共に大喜びするのであった。















「ってゆーか何で私が殿までも・・・・・・」



いつの間にか自分が呉の保護者になってることに陸遜は溜め息を吐いた。























川へ行くとなったら、もともとは尚香達も誘おうと思っていたが、これが殿まで一緒となると大団円になる。
本当は今すぐにでも行きたかったが、参加者を集う必要が出てきたので出発は明日の朝となった。
その事については口づてに広まっていくから良いとして。
は別の問題に直面していた。



「水着がある・・・・・わけないよねぇ。水遊びってどうしてたの?」

「服を着たまま入るしかないわよ。女の子は泳いだりあんまりしないし。それか全裸で・・・

「どうしよう。泳ぎたいなー全身使って」



尚香の言葉を遮りは考え込む。
場所は変わって尚香の自室。明日のお誘いとその相談をしているところだ。
多分本当にその場合は男性陣を連れてこないとか別の場所に行っててもらうとかするんだろうけど、どっちにしたって恥ずかしい。
出来る訳ない。
腹を括って服を着たまま入るとしても、このままの状態では重すぎてまともに泳げない。

改良が必要だ。



「ねぇねぇ、それより水着って何?水の服なの?」

「ううん、水に濡れても透けない、南蛮の人が着るみたいな・・・・」



の説明を聞いて尚香の目が光った。
それを見逃さなかったは、まさかと期待と不安が込み上げる。
そして案の定、尚香は楽しそうに立ち上がって奥の部屋に行くと、数分後何種類かの服を持って戻ってきた。
服というよりも水着のような下着のような南蛮衣を。



「じゃーん!こんなんで良いんでしょ?」

「うわぁ凄!何で持ってるの!?」

「ふふふーまぁ色々あって。でもこのぐらい、護衛兵の子とか似たようなの着てるでしょ?」



言われてみては思い出した。
ゲームをやってて、本当にそんな格好で戦場に行くんですかと聞きたくなるようなセクシーな衣装を着た護衛武将がいた。
それはこの世界も一緒で、時々そんなお姉さん方を見かける。
しかし、は南蛮衣を手にとって広げてみてゴクリと息を飲んだ。

セクシーすぎやしませんかコレ。
際どいよ、うっはービキニだってまだ着たことなかったのに!

にとって南蛮衣は度胸がいる服だった。
今まで着たことのある水着だって、確かにビキニになるものもあったが、その上にワンピースを着たりズボン形のものがついていて着れるタイプだ。
腹なんて出したことない。
しかし年齢的にもそろそろ着てみたいという願望はあった。
チラッと尚香を見やる。尚香の手にはもう一つ南蛮衣があった。
の視線に気付いたのか、尚香はニコッと笑う。



「私も泳ぎたいわ!一緒に着よう!」

「・・・・・うん」



は決意を秘めてコクリと頷いた。
1人だけなら恥ずかしいが、尚香も着るならこれほど頼もしいものはない。
は嬉しそうに笑った。
しかし、影で尚香もニヤリと笑うことになる。



「(ふふ、が肌露出するなんて聞いたら何人の男共が釣られるかしら)」



色恋沙汰の好きな尚香は、この後城中に触れまわるのだった。












そして翌日、集まったのは陸遜、孫堅、凌統、甘寧…つーかもう呉の顔有り武将全員だ。
効果かどうかは分からないが、もともと遊び事が好きな連中だし一部が行くといえば芋づる式でみんなが来るのだろう。
留守はいわゆるモブ将がなんとかしてくれる。はず。

行きはそれぞれ馬に乗り、パッカパッカと自然を楽しみながらゆっくり進んだ。
は陸遜の馬に乗せてもらった。
ちなみに甘寧と孫策は競争だー!とか行って出発と同時に走り出していた。
は甘寧が勝つんじゃないかなと予想しているが、陸遜曰く「どっちも馬鹿ですからね…はっ(嘲笑)」らしい。
甘寧はともかく孫策にまで言ったなと、何かあった時に付け入ろうとは深く心に留めた。

午前中に目的の川にたどり着いた。



「わー凄い!大きい!」



目の前に広がる雄大な川を見ては目を輝かせる。
これがあの長江か。凄い綺麗!
陸遜に下ろしてもらうとはすぐに川へと走った。
太陽の光が水面に反射してキラキラと光っている。
川は澄み切っていてとても綺麗だ。
しゃがんで手を突っ込んでみる。

きゃっ冷たい!

それは気温と反比例しているからとても気持ちの良い冷たさで、今すぐ飛び込みたくなった。
結構流れは緩やかだし、底が見える箇所が続いているから安心して泳げるだろう。
ちゃんとそこら辺を考えて連れてきてくれた陸遜にほんの少し感謝する。



!早く着替えましょう!」

「あっ、今行く〜!」



尚香に呼ばれ、振り返り駆け出す。
太子慈から預かってもらっていた荷物を受け取り大喬と小喬も一緒に大きな岩陰へと行った。
そこは呂蒙や凌統が気を利かせて作ってくれた簡易脱衣所になっている。
女性陣の黄色い声が時々聞こえ、男共は少しそわそわしていた。



「陸遜も泳ぐのかい?」

「・・・・・・いえ、大人しく見てますよ」

「何だ、せっかく来たってのに。陸遜が泳いでくれねーと俺も入りにくいだろ」

「甘寧殿が居ませんからね」



見れば服を脱いでフンドシ一丁、泳ぐ気満々なのは孫堅、黄蓋、呂蒙、太子慈。
孫権はほんの少しだけ水遊びしたい程度なのか服を捲っているだけだった。
周泰と周喩に関してはいつも通り、全く泳ぐ気配はない。連れを見に来ただけだと思われる。

どこか若さが足りない。




「そういえば、あの2人はどうしたんだ?」

「どーせ道に迷ってるんですよ」



律儀に準備体操する呂蒙の問いに、陸遜はアッサリ言ってのけた。
というか、川は川でも中国大陸を横断する程長い長江なのだ。
その中でハッキリと此処だという場所を決めてなかったのだから、2人がはぐれない訳がなかった。
その事に初めから気付いてたのは恐らく陸遜だけ。教えてやれよ。



「・・・・・ま、ここまで来て入らないってのは無しだろ」

「何故です?」

が許すか?それに乗りのわりぃ奴は孫呉にいないっつーの」



ニヤッと笑うと凌統は上半身の服を脱ぎ始める。
陸遜は不服そうに凌統を見るも、覚悟はしてるのか何も言わなかった。

そんなこんなしてる内に女性陣の着替えが終わった。
尚香の声と男性陣の歓声が聞こえたので陸遜と凌統もそっちに視線を移す。



「おっまたせー!どう?なかなか似合うでしょ」

「「「ぶふっ!!」」」



尚香を筆頭に4人が岩陰から出てくると、その場に居たほぼ全員が各々思い当たる節があり吹き出した。
まず尚香は、一国の姫君がなんちゅー格好してるんだというのと、そのナイスバディに男の本能が反応しない訳がないというのと五分五分だ。



「しゅーゆ様!どうっ似合うー!?」

「あ、小喬転ばないようにね」



小喬と大喬については、流石に尚香と同じ際どい南蛮衣は着てないが、それでもいつもより露出度多めな袖なしへそ出しルック。
十分華やかで場を盛り上げたし、熱狂的な一部の者がもの凄い反応を示す。
妻の姿を見て周喩は鼻血を噴き出し即倒した。案外うぶだなオイ。



「ごめんっ、待たせて」



は照れているのか、3人より隠れるように控えめに出てきたが、着ている物は普段からは想像つかないような露出の高いもので。



「〜〜〜!」

「へぇー、って思ってたよりかは胸あるんだな」

「失礼だな、そんなにまな板に見えてたか」



陸遜は思わず後ろを向いた。
が近くまでやってきて、凌統と軽く喋っているが、陸遜はそれどころではない。
なんというか、自分だってそうだし、呉は軽装で肌を露出している者が多いが、普段割と着込んで色気のいの字もないが肩、二の腕、腹、太ももをさらけ出しているのはいただけない。

こんな大勢の前で、そんな格好して・・・・・・!

だけに対して抱く感情なので理不尽だが、それはもっと別の大事な意味も含んでいるので我慢しよう。



殿、それなんとかならないのですか?見苦しいですよ」

「あーはいはい、すいませんね見苦しくて。自信あったら私だって普段から」

「良いから、入る時以外はこれを羽織ってなさい」



そう言って陸遜は一瞬だけ振り向いて、体を拭くための長布を投げかけた。
そしてまたすぐ背を向けてしまう。

何だと言うんだ。

いつも褒められたりしたことはないが、貶してくるから慣れてきたが、何だか今回は妙に態度が子供っぽい。
は首を傾げながら凌統を見るが、ニヤニヤ笑って「察してやんな」と言うだけである。
陸遜の考えてる事を察せなんて、無理難題を。



ー!行くわよー!」



考える前に尚香の声がしたので、は陸遜のことはさておき布を投げ飛ばしていった。
投げ飛ばした布は陸遜に被り、陸遜は物凄い速さでそれを取る。

若干、顔が赤かった。
















その後は、もう、めいっぱい遊ぶ。












「はいはーい!位置についてー、よーい、どん!」



小喬の掛け声を合図に、一斉に川の流れに逆らって泳ぎ出す。
達はまず競泳をした。一番に対岸についた者が勝ちである。
最初に意気揚々と服を脱いでたメンバーで行い、も、泳ぎにはそこそこ自信があるので不適な笑みを見せていた。



「おおっ!?殿やりますなっ!」



スタートしてみれば、その自信は確信へと変わり、珍しくが他と差をつけ活躍している。
それもそのはず、はクロールをしているのに対し、みんな平泳ぎだ。それしか知らない。
いくら脚力がどうとか言ってても、水泳は力だけではないし、スマートな泳ぎ方をしている分の方が速い。



「(ふっふっふ、この勝負もらったぁあああ)」



も勝つつもりでいた。が、そうそう上手くいかないのが世の常だ。
ここは川である。荒波や障害物が一切ない区切られたプールとは違う。
この日、長江の流れは緩やか、荒々しい波は立っていないが・・・・何かが流れてきた。
は息を吸う為顔をあげた瞬間、それを間近で見てしまった、というか顔面に直撃させた。



「げふっ!」



その拍子に呻き声をあげ中途半端に息を吸い、また水も飲んでしまって、耐え切れずに泳ぐのをやめた。
ゼェゼェ荒い呼吸を繰り返しながらも流れてきたそれを手にとって、思わず声を張り上げる。



「だぁれどぅあー!草履流したやつー!!不法投棄だぞー!!」



叫んでいる内に次から次へと追い抜かされ、気持ち悪さも重なってやる気をなくす。
もう勝てないだろ、そう思い先頭の競争を見守っていると、遅れて泳いで来ていた太史慈に、潜水していた為前が見えてなかったのだろう、膝カックンされた。

が水中に沈んでいる間に、孫堅の勝利が決まっていた。

























続いてはの腰辺りまでしか水位のない浅瀬で、きゃっきゃっ言って遊ぶ。



「てーい水鉄砲!」

「ぶぐ!!」

「なにっどーやったの!?」

「こうして両手を合わせた中に水をいれてね・・・・・・」



説明しながら再度は凌統に攻撃した。
が妙なことをやれば、尚香が興味津々でやり方を教わり、それを孫権にやりに行く。
ほんの少し後に悲鳴と盛大な水音が聞こえた。



「こんにゃろ、お返しだ!」

「きゃっ!負けるか!」



やり方が分かれば、仕返しと言わんばかりに凌統が水鉄砲でを攻撃する。
対して負けじと、今度は広範囲に無差別に水飛沫を立たせた。
それが太子慈や尚香にもかかり、2人は良いのだが、遠く岩の上に座っている陸遜にまで掛かってしまった。
陸遜は陽の下で読書をしている最中だった為、当然服だけでなく本まで濡れて。
ポタポタと髪から落ちる水滴と彼の表情を見て、はやってしまったと心の中で悲鳴をあげた。
陸遜はポツリと、しかしハッキリと聞こえる声で言った。



「 ・・・・水なんて小さな粒、やっぱり火の方が良いですよね火計が良いですよね」

「な、何いってるの陸遜?」

「今すぐ燃やしてあげましょう」

「いーーーやーーーー!!!」



陸遜がバッと上着と靴を脱いで一直線に走り出してきたので、慌てては逃げ出した。
周りの人たちは笑ってるが、それどころじゃない。
ひーっ、久し振りに本気で怒らせたああああ!目が本気だあああああ!!!



「まさかずっと本を読んでいるのかと思っていたが、陸遜殿も泳いで良かったな」

「そうね、これものおかげね」

「甘寧だったらその場で火矢だろうからな」



もの凄い形相で遠く泳いで離れていく2人を尻目に、その場の3人は和やかだった。















「あぶぶぶぶ、やだっ、陸遜!泳ぐのはや!ぎゃっ!」



クロールで必死に逃げていたが、時々止まって振り返れば、目前に陸遜が迫っていて。
それが分かってしまうと、なかなか思い切り泳げず、泳ぐというより掻き分けて進んでいれば直ぐに腕をとられた。

そして―――――――



「!?ごぶばあああああ!!!」



あろう事か顔面水中に潜り込ませ押さえつけられた。

ガッチリ頭を手で押さえ、上にあがらせないのである。
し、死ぬ!マジで死ぬ!!
突然のことで息をとめることも出来ず、すぐに苦しくなる。
意識ある中で陸遜への恨み辛みを呪文のように唱えていると、スッと手が離れ、は思い切り水上に浮上した。



「ぷはぁっ!」



そして荒々しく空気を吸い込む。
いつの間にか、座り込めるぐらいの浅瀬にいたみたいで、はその場に倒れこむようにして腰を下ろした。
体が震える。鼻にも肺にも水が入っていて気持ち悪い。
だがそれを押し殺して、は目の前の人物に向けてめいっぱい怒鳴った。



「本当に殺す気かああああ!!それにこれは水!火じゃなくて水だから火計じゃねーよ馬鹿あああ!!!



は怒っているのというのに、陸遜はサッパリ気が晴れたような表情をしていて、全く反省している様子がない。
というか、笑っている。



「あは、あははっ、息の根を止めるならどっちでも良いじゃないですか」

「・・・・・・・・・まさか、本気だった?」



サラリと恐い事を言う陸遜を直視して、の血の気はすっかり引いた。
















********************

















「よーし海の名物、すいか割り、いっきまーす!」

「ここは海ではありません」

「知ってる、気持ちだけだよ」




みんなの元に戻り昼食を食べた後、気を取り直したは西瓜を持ち出すと中央に立った。
すいか割りを川でやったことはないが、こっちでも出来る夏の風物詩は、出来るだけみんなにも教えて楽しんでもらいたい。



「すいか割りとは?」

「切っちゃだめなの?」

「うん、今説明する」



は西瓜を一旦離れた場所に置き、用意してもらった棒と鉢巻を持ち出した。



「1人がこの布を使って目隠しします。その場で10回ぐらい回ってもらって、離れた西瓜を棒で叩き割る遊びです」

「それじゃ西瓜の場所が分からないのでは?」

「周りの人がもっと右!とか、そのまま真っ直ぐ!とか言って指示出してあげていいの。目隠しした人はそれを頼りに動くんです」

「へぇー、面白そうね」

「んじゃ早速、尚香やろっか」

「任せて!」



みんなが見守る中、尚香は意気揚々とから棒を受け取った。
が顔に布を巻いて目隠ししてあげる。
尚香はやる気満々でブンブン素振りをした。

・・・・・・・・・それがちょっと恐いのだが。

面倒なことにならなきゃ良いけど、とは不安を感じながら準備をした。



「はーいじゃあ、位置についてー、よーい始め!」



の声を合図に、尚香は物凄い速さでその場を回る。
おお、なんつーか、体育会系は動きに無駄がないですな。
とかなんとかが関心してる間に尚香は回り終わり、見えないもののキョロキョロ首を振った。
そんなに目が回ってはいなさそうだが、西瓜の位置や、自分がどこを向いてるかは分かってないらしい。
これで陰険な事に神経集中して覚えられてたらつまらないから(陸遜なんかやりそう)、純粋にゲームを楽しんでくれる姿勢が嬉しい。



「尚香ー!もっと右だ右!」

「ああ姫様!向きすぎですぞ!」



周りも指示に熱が入る。
しかしあろうことか尚香は、声を聞きながらも面倒くさいと感じたのかブンブン振り回しながら適当に進んだ。



ブンブン

「ぎゃー!姫さんちげーよ!俺は西瓜じゃない!」



危うく凌統が頭かち割られそうになるのを避ける。
棒が振り落とされた先は、岩が粉々に砕け物凄い威力であることを示していた。
尚香は責められてるというのに、悲鳴を聞いてちょっと楽しそうだ。
おいおいそういうサディスティックな楽しみ方しないでくれ。



「尚香、こっちこっち!」



みんなが恐怖で尚香から数十メートル下がり、このままじゃ色々なものを破壊しかねないので、は西瓜を動かして尚香を誘導した。
手っ取り早く終わらせるに限る。
尚香にバレなきゃ良いだろう。



「こっち?」

「そう、そのまま真っ直ぐ進んで・・・・・止まって!」



一同が見守る中、尚香はやっと西瓜の前に立った。
正確にいうと尚香はあまり動いておらず、西瓜から近付いたのだが。
尚香はの言葉を素直に聞き入れると、腕を振り上げた。



「そこ!」

「たぁあっ」



ドゴォン






・・・・・・・・・西瓜の割れる音と思えないが、そこは気にしてはいけない。
ついでに西瓜は粉々で実やら汁が四方に飛散して最早食べ物でないが、まぁ、あと2個あるし・・・・。
は顔にかかった汁を拭いながら終了を告げた。



「おめでとー!」



わぁーパチパチ、と適当なことを言って、大して場も盛り上がらないままさっさと回収する。
なかなか類を見ないグダグダ感。突き刺さる視線が痛いです。
視線の主――陸遜が嫌悪してをジッと見ていた。



「食べ物を粗末にして楽しいですか?」

「いや〜、本当はこの後美味しく頂くんだけど。うん、食べれる。大丈夫。ってことで次からやる人力加減よろしくお願いしまーす!



が陸遜から顔を逸らして周りに向かって言うと、みんなはコクコク頷いた。
その後、小喬と呂蒙さんが挑戦したり、西瓜と肉まんを美味しく頂いたり、また川の中入って遊んだり、楽しい時を過ごした。






帰り際、が全員を見回して笑顔を見せる。



「また来ようね!!」

「うむ、皆でまた」



孫堅が微笑んで答えてくれた。
は心の奥で噛み締める。




そう、みんなで。・・・・・・・・みんな?・・・・・・・アレ?






忘れ去られていた2人―孫策と甘寧は、3日後に無事発見されたそうな。












END









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あとがき


最初は暴走コンビも、ちゃんと合流して暴走する予定でいたんですが、 どうしても夕暮れ時効果でオチが弱くなるので、いっそのことオチに回して放置(殴)
しかし、せっかく川来て一番はしゃぎそうな2人を省いてしまったので辛かった(;´∀`)←馬鹿

楽しい思い出を全部文章化しようとしても絶対書ききれないので、ところどころ割愛。
まぁ、書いてる側としては川に来る前までが一番楽しかったんですけどね!(殴)

匿名ながらリクエストしてくださった方、ありがとうございました!
孫呉の夏は、きっと楽しいよ!






更新日:2008/07/29