オセロ
雨降る午後のこと。
今日も今日とて仕事中のとに仕事を押し付け本読んでサボっている陸遜の元に、ドタドタと騒がしい来訪者がやってきた。
駆け走ってきたのだろう、あまりの足音と大きな鈴の音に何事かとは視線をあげる。
するとそれと同時にバタンと扉が開いた。
あ、陸遜嫌そうな顔した。
「陸遜!ちょっと助けてくれ!」
いきなり入ってきたのは甘寧だった。
ずかずかと中に入ってくると陸遜との前までやってきて盛大に卓を叩く。
オイちょっと、そんな勢いよく叩いたら墨がこぼれ落ちちゃうでしょ。
甘寧と会うのは初めてだ。
なのに小さなところが気にかかり感動するとかそういう事はない。
こう改めて見ると、上半身何も羽織ってないから目のやり場に困るし見た目の柄の悪さがもの凄い。
ゲームをプレイしてなかったら完全に引いてしまいそうだ。
そんな甘寧はのことが眼中にないらしくしきりに陸遜を立たせようとするが、陸遜の方はというと甘寧が眼中にないようだった。
「忙しいので他あたってください」
嘘つけ本読んで遊んでるだろう。
陸遜はずっと本に視線を落とし甘寧を見ようとしない。
陸遜の気を引く為甘寧は再び、それもさっきより勢いよく卓を叩いた。
「なぁ頼むよ!お前しかいないんだって!!」
「ぎゃあああ!!」
思わずあがる、の悲鳴。
とうとう墨が零れて書き途中だった竹簡を見事に汚してしまった。
文字に墨が重なって解読不能になっている。
「あれ?お前誰だ?」
なのに謝罪の言葉もなく、それどころか今気付いたとばかりに甘寧が言うので流石にも黙ってない。
「ちょっと甘寧!先に言うことがあるでしょう!?」
「へっ!?何で俺の名前知ってんだ!?」
「殿はつい先日から私の補佐として働いてもらってる方ですよ」
「あっ、アレか!?例の別の国から来たっていう」
「人の話を聞け!!」
ダンと卓を叩いて立ち上がる。もう墨が零れるとか竹簡が落ちただの気にしない。
人が怒ってるというのに2人ともしれっとしていて(陸遜が縮こまる必要はないが)、は余計に腹立たしく感じた。
しかも甘寧は嬉しそうな顔をしている。
今すぐその顔ぶん殴っていいですか。
が物騒なことを思いながら握り拳を作った時、不意に甘寧に手首を掴まれた。
「何すん・・・!?」
「頭良いんだろ!?おめぇでもいいや陸遜借りてくぜ!!」
「!?」
甘寧はそういうやいなやを引っ張り手を掴んだまま走り出した。
しかも無双乱舞のあの走りで。
事の急展開にも、陸遜でさえもついていけない。
「おりゃああああ血滾るぜぇーーーーー!!!!」
「うぎゃああああああああああ!?」
は変な悲鳴をあげながら連れ去られてしまった。
ガタリと音を立てて陸遜も立ち上がるとすぐに後を追う。
「誰も貸して良いなんて言ってませんよ・・・・!」
その前には物ではない。
*********
「凌統!勝負の再開と行こうぜ!」
やっぱり甘寧は扉を勢いよく開ける癖があるらしい。
バンと大きな物音を立てたのに加え、ここまで走ってきた時の足音で来るのがわかってたと言わんばかりに凌統が馬鹿にしたような顔でこちらを見ていた。
ここでやっと甘寧はの掴んでいた手を離し、は膝に手をあてぜぇはぁと荒い呼吸を繰り返した。
っていうか、死 ぬ 。
ここまで全速力。当たり前だ無双乱舞は終わるまで止まらない。
普段から鍛えてる者と鍛えてない者の体力の差なんて歴然としている。いやそれ以前の問題でもある。
ペースを落としたくとも甘寧が手を掴んでいた為無理やり引っ張られた状態で走り続ける…まさに生き地獄。
怒りたくとも疲れすぎて気力がない。
とりあえず顔をあげると既に甘寧は凌統の前に居て、その凌統が妙な顔でを見ていた。
「・・・まさかこのお嬢さんのことか?最終兵器っつーのは」
「おうよ!覚悟しやがれ!」
「ぶっあははは!!おいおい女に助け求めるなんざ鈴の甘寧の名が泣くっつーの」
いきなり凌統は笑い出した。
最終兵器とか訳の分かんない言葉が飛び出したが、なんとなく凌統の言ってる事は分かる気がする。
凌統と甘寧の間に簡素な卓、その上には先程まで甘寧も一緒に居たであろうお茶菓子や茶碗があった。
こいつらきっと何かの勝負をしてたんだ。
で甘寧が負けてて助っ人として陸遜を頼りに来たんだ。
しかし凌統の言い分は最もなんだろうけど、自分まで馬鹿にされてるようで気に入らない。
はなんとか息を整えグッと一歩前に踏み出すと、そのまま2人の前まで行った。
「勝負しようじゃないの」
キッと凌統を睨む。
凌統とも記念すべき初対面だがそれどころではない。
は負けず嫌いであった。しかしその勢いもすぐに弱まることになる。
「・・・いいぜ、お手並み拝見といこうか」
女にしてはやけに気迫のあるに興味が沸いたのだろう。
凌統は手で甘寧を追い払うかのようにどかすと、に席に座るよう促した。
は座る。が、もっと早く気付くべきだ。
目の前にあったのは碁盤。囲碁だ。
・・・・・・・・・・・・囲碁なんて知らねぇええ!
さっきの気迫はどこへ行ったのやら、恐る恐るは尋ねた。
「あの〜・・・・・・凌統サン。勝負ってもしかしなくとも囲碁ですかね?」
「それ以外何があるっていうんだい?・・・つーか俺の名前知ってたんだ」
「・・・・・・・・・ここは一つ、趣向を変えて別の勝負にしません?」
凌統の言葉を軽く無視しては続ける。
は今自分に精一杯だ。
碁は知らない、出来ない。今すぐ出来るもの。目の前にあるのは、びっしりマスの描かれた盤と、白と黒の碁石。
白と黒。
「・・・・・オセロとか」
「おせろ?」
「あ、私の居た世界での遊びです。こう自分の色で相手の色・・・この場合黒ですけど、挟んで白になるんです。こんな感じに。
で、最後まで並べてって自分の色の多い方が勝ち」
は碁石を代わりにして実際にやってみせながら説明した。
挟んだ石の色になる。ルール自体は簡単だ。
まぁやったことのある者とない者では実力差はハッキリしてるだろうが言わないでおく。
どうせなら確実に勝てる勝負をしたい。そこ、ずるいとか言うのはナシの方向で。
凌統は少し悩む素振りを見せるもやり方を理解したのか承諾した。
「良いだろう。異世界のことも少し興味があるしなさん」
ニヤリと凌統はわざとらしく笑っていった。
聞き慣れない言葉に『居た世界』とか口走ったからの正体に気付いたようだ。
名前も教えてないのにバレている。
ただも隠す気はないので悠々としている。
今は凌統を、コテンパンに負かすのみ。
「じゃ、私から」
最初の形に並べて、は碁石を持つ。は白だ。
甘寧はの側でやたらと無駄な声援を送っていた。
**********
「やっと、見つけた・・・!」
一方、陸遜はやっと2人の居所をつき止め、部屋の前に立っていた。
甘寧の騒がしい声が中から聞こえてくるから間違いない。
甘寧が無双乱舞なんかするから陸遜はすぐに彼らを見失い、2回も誰もいない場所へと足を運んでしまった。
あぁ甘寧の声が憎たらしい。とりあえず殿を連れ帰って仕事を終わらせた後は、どう仕返ししてやろうか。
そんな黒いこと考えながら扉を開く。
すると目の前には、卓を挟んで凌統は悔しそうな顔で頬杖をついていて、は得意気に憎たらしい顔で腕組みなんかして、
甘寧はというと馬鹿みたいに瞳をキラキラさせながら2人の周りを回ったり跳んだりしている。
いや実際甘寧はお馬鹿だ(訂正)
異様な光景に、陸遜はひきつった笑みを浮かべた。
「・・・・何をやってるんですか」
すると陸遜の存在を認知してが嬉しそうな声をあげる。
「あ、陸遜ー!フフフ、私の実力を見せつけたまでよ」
「自分の得意な勝負でやってるだけだろ?威張んなっつーの」
「ぷぷっ凌統よえー」
「てめぇだけには言われたくねぇ!」
碁盤の上にはほとんど白い碁石が並べられていた。
に全面白色にするほどの実力はないが、そこそこ強い。
もちろん初めての凌統は勝てなかった為、こんな状況になっているのである。
が、陸遜がオセロを知ってる訳はなく、なんの勝負をしてたのかも定かではない為そんなことどうでもいい。
「殿は仕事の途中だったんです。返してもらいますよ」
「おういいぜ!」
無事他人の実力で仕返しを完了した甘寧はアッサリ了承する。
しかしすぐに凌統から待ったの声がかかった。
「ちょっと待った!負けっぱなしってのは性に合わないんでね。さぁ、もう一勝負といこうじゃないか」
「ふっふっふ、良いでしょう受けて立つ!」
ゴンッ
「返しなさいと言ってるでしょう」
凌統ももノリノリだったのに、それは陸遜によってアッサリ遮られた。
しかも何故かが頭を叩かれた(背の問題だと思われる)
フルフルとゆっくり顔をあげ恨めしそうに陸遜を見る。
「何で叩くかなー!?馬鹿になったらどうしてくれる!」
「甘寧殿とお友達になれますよ」
「やったな!」
「良くねぇよ!」
ついも乱暴に否定の言葉を出してしまったが、そこは甘寧がツッコむべきだろう。
なんて寛大なんだ。それとも本当に分かってないお馬鹿さ(以下略)
話が逸らされてしまったので再び凌統は頼んで言った。
「なぁ頼むよ軍師さん。この憎たらしい顔ぐしゃぐしゃにしてやりたいだろ?」
「ちょっ、とても女の子に吐くとは思えない事言ってません?」
「それにこのおせろ、っての。なかなか面白いぜ。軍師さんもやってみれば?」
「私の事は無視ですか?」
凌統の言葉に陸遜は黙り始めた。
あ、完全に無視だ。
「・・・・・・・・では1回だけ殿とやらせてもらいます。私が勝ったら連れ帰りますから」
「おっ強気だね」
「は?え?私の意見は!?」
「良いのかい?簡単そうに見えて結構難しいぜ」
「大丈夫、私が殿より劣ってるとは思いません」
ムカッ
凌統が陸遜に席を譲ると憎らしい微笑みを湛えた顔が目の前にやってきた。
さきほどからスルーされまくった上に降りかかった言葉。が切れない訳がない。
絶対徹底的に負かして泣かせてやる・・・・・!
の闘志に火がついた。
が、表向きはあくまで平常心。
「フッ、何でも思い通りに行くと思ったら大間違いだからね?」
「頑張れよ、勝ったら仕事サボれんだから」
「もちろん!」
握る拳に力をいれは応える。
凌統からすればどっちが勝っても楽しい状況になったのだが、それでもまぁまだと遊びたいかななんて思って応援してみる。
「んじゃ俺は陸遜応援してやるよ!」
「いらないです黙ってて下さい」
「がんばれー!りっくそーん!」
「黙れ」
陸遜、とことん甘寧に冷たい。過去に何かあったのだろうか(不明)
だが甘寧も慣れてるのかへこたれることなくはやし立てたりしている。
(・・・・何であんなに殿と凌統殿は仲良しになってるんでしょう。)
それよりも陸遜はこっちの方が気掛かりだった。
陸遜の前でもは結構素を見せている気がするが、なんとなく凌統と喋る時の方が生き生きしている。
・・・・・・・・・・気に入らない。
簡単にがオセロの説明をすると早速先手陸遜黒で勝負が始まった。
そして数分後。
「あ、有り得ない・・・・・!!!」
愕然としているのはの方だった。
凌統と甘寧も驚いていて、陸遜だけが悠々と目の前のを見下ろしている。
碁盤にあるはほとんど黒。つまり陸遜の圧勝だ。
「何で!?隅も私の方が取ったのに!有り得ない!」
「さ、戻って仕事してもらいましょうか殿」
恐るべし陸遜。頭の出来が違うのかなんなのか。
いやこの場合相手の色を挟んだら自分の色になる、というルール自体は単純なオセロだからこそ、初めてでも勝てたのかも。
陸遜はニッコリ笑顔で語尾にハートマークをつける勢いで言った。
このの動揺っぷりを楽しんでるに違いない。
対しては納得行く訳がなく、抵抗した。
「いーやーだーっ陸遜もう1回ー!!」
「ダメです。仕事が先です」
陸遜に首根っこを掴まれてズルズルと引きづられる。
男と女の悲しい力の差。っていうか尻が痛いっ首苦しい!
「ちょっ、陸遜放して痛い痛い!分かったちゃんと仕事に戻るから!」
「はい」
「あだっ!?」
思いのほかアッサリ陸遜は放してくれたのだが、受身を取ってなかったので頭が地面に直撃した。
そんなに高さはなかったが地味に痛い。涙目になりながらはギロッと陸遜を睨んだ。
陸遜はの顔を見て笑っている。
「陸遜ーー!!!」
「はいはい、ちゃんと仕事を終えたらまた相手してあげますよ」
そのまま2人は部屋を出て行った。
ここまでの一部始終を見ていた凌統と甘寧は呆然と突っ立っている。
「・・・・・・すっげーな」
「あっはは本当だな!って変な奴ー!!」
「いやそこじゃないし」
凌統が言いたいのは陸遜の方だった。
前から冷めたところというか黒い部分は垣間見えていたが、それでも民とか兵士とかの一般人には親切で丁寧に対応するのが彼だ。
まして女性には爽やか笑顔を見せるのに。
それが何だ今のは。
ってゆーか女の首根っこ掴んで引きづるって有り得ないだろう(凌統的見解)
自身もそこら辺の女人に比べたらかなり異質な存在であるのは凌統も一緒にオセロをしていてすぐに分かったが、
それにしたって陸遜の対応の違いっぷりが凄まじい。
しかし常に楽しそうな雰囲気を纏っているので、嫌いだからではなく好意の可能性が高い。
むしろさっきのやり取りはさながら惚気漫才のようだ。
に興味はあるが、手を出すとすぐにでも陸遜に噛み付かれそう。
そう考えて凌統は苦笑を浮かべるのであった。
END
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言い訳
収拾つかなくなるので終わっとけ、という感じです。
ヒロインは人見知りしないタイプです。
相手を知らなければ知らないなりにわざとふざけてみたりして盛り上げようとします。
途中の部分部分が書きたいが為にオチが落ちきれてないものばっかりですが、楽しく書いてるからヨシb(良くない)
甘寧好きの方ごめんなさい。私も甘寧嫌いってわけではないですけど、ここではお馬鹿さんで通して生きます。
更新日:2007/05/02