みの虫















私は。21世紀を生きてる人間。間違われやすいけど、これでも一応大学生でした。

・・・・・・いやまだ諦めてたまるかぁああ!こんな訳の分かんない世界で一生を終えたくない!絶対元の世界に戻ってやるんだからぁああ!!



「うるさいので無駄な葛藤をしないで下さい」




陸遜は書に筆を滑らせながらハァと溜め息を吐く。
はまるでロボットのようにぎこちなく顔をあげて目の前の陸遜を凝視した。

何で私の心の中がわかるの!?まさかこいつ腹黒を通り越して人の道を外すあまりに異常な能力を――




「それ以上口で言ったら燃やしますよ」





咄嗟にバッと両手で口を押さえる。
その時初めては自分で声に出していたことに気付く。

馬鹿だ。我ながら馬鹿だ。

くそぅ、陸遜はさして気にもせず(むしろ興味がない)書類を片付けているけど、きっと腹ん中で笑ってる!(実際怒っている)




はジッと陸遜を見るも、相手は手を動かし全くこっちを見る気配も口を開く気配もないので、観念して視線を落とし自分の仕事である書類に手をつけた。
書類といってもアレだ。糸で繋がれた竹簡に筆と墨で書くのだ。書き難いったらありゃしない。

脅されはしたが怒られないだけマシであるのはスルーする。




先程も自身で言ったように、は21世紀の人間。
俗にいう異世界トリップをしてこの三国無双というゲームなのか時間を遡ったのかわかんない世界にいる。
多分、いやほぼ確実に前者のゲームの方なのだが、どっちにしろ学校返りに突如訳の分からない場所に飛ばされ、気付いたら色んな人に囲まれ、流れに流れて
なんとか善意でこの城に部屋をおいてもらっている。
その際に、女でありながらその若さで勉学を習い文字の読み書きが出来るのか、と周瑜に感心され陸遜の補佐をすることになったのだ。
前から陸遜が仕事量が多い、手伝いをする部下が欲しいと愚痴っていたらしい。
元居た世界に戻れる間面倒を見てもらう見返りの仕事である。
仕事といっても大半はパシリ使いだったり身の回りの世話だったり誰にでも出来そうな簡単なものばかりなのだが。
一応扱いは客人。だがの話に興味を持った孫堅や孫策、尚香などの王族とも気軽に話すことを許されているのでそれ以上かもしれない。


陸遜と初めて会った時、彼はニッコリ笑って優しく接してくれて、は思わずラッキー!!と心の中で叫び笑顔で返した。












それなのに。それなのに今はこうだ。
1日も経たない内に陸遜は本性を現した。




友よ、あなたの好きなキャラはとんでもない性悪だったよ




は遠く別の地にいるであろう友達に思いを馳せた。
それでも手は動かし続ける。動かさないとまた陸遜がうるさい・・・・・・・・って。
そこまで考えては目の前の事態に筆を止め固まった。



アレ?やばっ、間違った!!



はやってしまった書き間違いというミスに心の中で慌てた。
別のことを考えていたため気が抜けていたんだろう。
陸遜と書くべきところを陸損・・・・と書きかけてしまった。


まだ書ききっていない、手偏を書いただけだまだ大丈夫。まだ修正ができる!


は心の中で自分に言い聞かせた。
そしてチラッと陸遜を見る。


大丈夫、まだ気付いてない今の内だ。



はゴクリと息を呑みなんとか誤魔化そうと決意すると全神経を注ぎ筆を滑らせた。

























ぎこちない遜の「子」の部分が出来た。














むー・・・・バランス悪いな



筆の先でチョンチョンと直してみる。
だがこれも上手くいかず、別の部分がはみ出てかなりでかいものになってしまった。
このまま書いてしまうと陸の字の倍の大きさほどのものが出来てしまう。

もう、修正のしようがない。




は数秒紙を凝視して考える。
だが、だんだんこれぐらいのミスで悩むのが馬鹿らしくなってきた。

そうだ、この世界に修正器なんてものはないんだし、誰だって失敗はする。
ならどうするかって、素直に塗り潰すして脇に書き直すしかないじゃない。
それにどうせ自分以上に字が汚くてぶっちゃけ何て書いてあるのか分からない文字を書く人もいる。
周りはそれを達筆と言うのかもしれないが、すいません正直本当に読めないんだ。

ということは、このぐらいのミスもオールオーケー☆どうとでもなる。
かなり後半の理由はこじつけ臭いが、がそう思ってしまえばそれで終わりなのである。



はグリグリと文字を塗り潰した。
そしてその上部に円を2個描いて中に点をいれる。
そう、みの虫の出来上がり〜♪
は思った以上に可愛いみの虫の完成に満足そうに微笑んだ。


問題が解決し(たと思ってる)上機嫌ですぐ隣に「遜」を書き足し竹簡をクルクル巻きはじめるに、上から声がかかった。




殿、何を書いているのですか?」



正確にいうと正面からなのだが、あまりの威圧感に上から声が降ってきたように感じる。
ビクッとは声に反応すると恐る恐る前を見た。

そこには絶対零度の微笑みを浮かべている陸遜がいた。

怖い。怖すぎる。



陸遜のこんな笑顔を見れるのは私だけだわ、きゃっvvとかとは程遠すぎて悲しくなってくる。
そんな怒りオーラ全開の陸遜の笑顔を見るのは初めてではなかったが、これが慣れる訳がない。
は冷や汗を掻きながら恐る恐る言葉を口にした。



「ま、間違っちゃったから直しただけ、です・・・・よ?」

「私には落書きで遊んでるようにしか見えないのですが。何ですか?その芸術の欠片もない物体は」



ただの落書きである時点で芸術性を問うのは間違ってる気がするがそんなことお構いなし。
には反論のしようがなかった。
したって更に陸遜に丸め込まれ嫌味を言われるに決まってる。
が反省しているのか沈んだ顔をしたのを見て陸遜はフッと鼻で笑うと、先程まで自身がやっていたであろう書類をドンとの卓の上に置いた。



「遊ぶ程余裕があるのでしょう?罰として私の仕事も片付けてくださいね」

「えっ!?んな無茶な・・・!」

「大丈夫、そこに書かれている数を全部足して書いてくだけですので殿にも出来ますよ」



陸遜がやっているのだから重要な仕事かと思いきや、渡されたのは確かににも出来ること。
実は大事な書類は先に済ませて出来るだけ簡単なものは初めからに押し付けるつもりだった為なのだが。
ともかく抗議の声をあげようにもアッサリ切られてしまい、は渋々書類に目を通し計算を始めた。

陸遜はそれを見て満足そうに微笑むと席を立ち執務室の隣の仮眠室へと入っていった。




「・・・・・・・・」




はチラリとそれを横目で見届ける。
そして姿が見えなくなると緊張の糸が解けたようにホッと息を吐き筆を置いた。


仮眠室に行ったという事はこれから寝る気だな。


だったら何も気にすることなくのんびりと出来る、とは姿勢を楽にしてんんーっと両腕を伸ばした――
ところで陸遜がひょこっと戻ってきたので、は慌てて腕を引っ込めるもバランスを崩して椅子から落ちそうになった。
陸遜が怪訝そうな顔をしてを見る。



「・・・・・サボったら許しませんからね?」

「わ、わかってるよ!!」



なんてタイミングの悪い(いや良い?)奴だ。
はヒーッと心の中で悲鳴をあげつつ、ひたすら頭は計算をするべくフル回転させた。
が再び筆を持ち真面目に仕事をする様を見て陸遜は満足そうに微笑むと、そのまま執務をする為の席、
つまりの目の前の席に戻ってきた。
見ると手には本を持っている。

ほほう、寝るんじゃなくて勉強ですか。そりゃご立派ですねぇー。


始めのように声に出して言いたかったが、余計に話が拗れることは分かりきっていたので黙々と作業した。




















ちなみに。









「・・・・ぷっ、あははは!」

「っ!?」



陸遜が突如笑い出したのではビクッと肩を震わせ何事かと顔を上げた。
そこには確かに、本を見て笑っている陸遜が。
の不審そうな視線に気付いたのか陸遜は未だ笑いを噛み殺した状態でありつつもに話した。



「ははっ、いや〜登場人物が間抜けばかりでかなり笑えますよこの本。馬鹿ですね」



言いながらも読み続ける陸遜。
そうか、こいつ勉強してたんじゃなくて漫画(じゃないが)読んで遊んでたわけだな。


つられて思わず自嘲気味に笑ってしまう。
元いた世界に戻れた時、時間が止まってました、だと良いなと心底思うであった。





















更に余談。




「(躾のなってない粗暴な方かと思ったけど、案外真面目なんですね・・・)」



陸遜は本を読みながらもしっかりを観察していた。
は今陸遜に言われた通りの仕事を一生懸命こなしている(目の前に陸遜がいるからサボれない、というのもあるが)

初めて会った時は、今まで見てきた女性とどこか雰囲気の違う、そして笑顔が可愛い人だなと思ったけれど
話してみればいきなり「陸遜」と呼び捨てにするわ話し方や動きが女らしくないわで、思わず女官達や一般兵と接する時の対応から
すぐに陸遜も崩して地を見せてしまった。
っていうか丁寧に対応するのが馬鹿らしく思える、そんな感じで今更訂正する気もないのだが。

それでも初対面ですぐに本性見せたのは初めてで、これはこれで気が楽で良いなと陸遜は思う。
そして陸遜にそうさせた彼女――に惹かれていくのであった。








END










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言い訳

夢なのに甘くないのは私が書くからです(痛)うわあああああとうとう書いちゃった夢小説!
とか言いつつ実際書いたのは数ヶ月前なのですが(ぇ)本当芋は好きな漫画なりゲームなりが出来ると節操なくサイト漁りに行きます。
そして夢小説も好きになった(笑)

白陸遜も好きですが、やっぱり黒で!でもここでは色々陸遜にも悪戦苦闘してもらいたいです。
一応、陸遜以外のキャラは壊す気満々です!イェイ!(オイ)
陸遜は壊れているのではなくて、元々腹黒がオプションでついてるものだと思っています。

異世界トリップした経緯とかそこら辺は、ありきたりなものしか思いつかないので割愛ですv(殴)
いらないよね!察して!日常的な部分から書きたかったんだ!
連載として続き物にするのか、短編としてポツポツ書いていくのかまだ決めてません。
でもとりあえず、このヒロインで数話書いてみたいと思うのでよろしくです。



更新日:2007/05/02